ローズカットの輝きは
薫を飲みながらこの店独特のまったりした空気に浸っていると、店の硝子戸が開く音がした。
和製天使が入って来る。恭司は秀一郎の下で働き始めてから纏う雰囲気が以前より引き締まり、充実感あるものとなった。カウンター席、私の右に座る。彼も薫を注文してから、私に向き直った。
「話って何だ」
「秀一郎さんのところはどうですか」
「よくしてもらってるよ。色々教わることが多い」
「それは良かった」
ちら、と恭司の視線が私の左手首に走る。
「どうかしましたか」
「あんたのそのブレスレット……」
「ああ、聖さんに頂いたものです。およそ二百年前のアンティークですよ」
「ダイヤだよな」
「ええ。近年のブリリアントカットとは違いローズカットが施されています。輝きはブリリアントに劣るものの、その分、穏やかで柔らかな光を放つのですよ」
「高いのか」
「なぜ?」
「楓が綺麗だと言っていた」
「…………」
私はしばらく沈黙した。つまり恭司は、楓の為にローズカットの指輪なり何なりを買ってやりたいのだろう。だが、値段は決して安くない。私は恭司の経済状態などを知らないが、おいそれと手が出る金額ではないことは確かだった。
「東京銀座のアンティークジュエリーマリコのホームページをご覧なさい。良品が並んでいます。価格はそこで確認すると良いでしょう」
「解った。それで話って?」
「私は、楓さんを貴方に託しても良いと思っています」
「……」
「けれど添わせてやるには道が厳しい。恭司さん。楓さんの為に相応の努力が出来ますか。ひょっとしたら命懸けになるかもしれません」
「命は楓に預けてる。とっくの昔に」
「そうですか」
私の唇が自然と綻ぶ。この若者であればきっと大丈夫だ。
私は手にしていたコーヒーカップをソーサーに置いた。恭司に真っ直ぐ視線を合わせる。
「恭司さん。貴方には天響奥の韻流の十一代目を継いでいただきたいと思っています」
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