羽を傷めた鳥のように
それからしばらくの間、私は、聖と同じ寝室で夜を過ごした。何をするでもない。只、聖が緩く私を抱いていてくれる。私は母の抱擁にも似たその優しさに甘えた。楓は察しの良い子なので、すぐに私に何かあったと気付いたらしい。けれど口には何も出さず、黙って私を見ている。年齢とはあべこべに、見守る眼差しだった。
心の奥底にある傷がじくじくと疼く。
私は一人の女でありたかった。一人の母でありたかった。一人の、只人でありたかった。誰に嘲弄されたとしても、それが私の紛れもない本心だったのだ。音ノ瀬一族当主の座も、天響奥の韻流の継承者の座も、欲しい者がいるのなら、子供が手毬を放るように、投げ与えたいと思った。嘘だ。おいそれとそんなことが出来ないのは、私が誰より一番よく知っている。
〝こと様は、ぼろぼろです〟
そうだね聖。貴方には解る。貴方にならば晒せる。
自分の身体に掛かる、薄い羽毛布団を見る。羽毛を取られた鳥たちは、その後も生きていけるのだろうか。それとも儚く朽ち果ててしまうのだろうか。だとすれば人間は鳥たちの墓標に身をくるみ夜の安寧を得ていることになる。罪深いことだ。罪深いことだ。人は傷つけ、盗み、奪い、生を得ている。
最近、咽喉が痛むので、枕元に置いている林檎咽喉飴の袋を取る。口に一粒放り込むと優しい甘さが口中に広がった。
林檎と蜂蜜ののど飴は、のどにも心にも優しいです。




