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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第一章
351/817

薔薇酒

 寺原田は重苦しい雰囲気で戻って来た部下たちを、頭ごなしに叱りつけることなどはしなかった。

「みんなお疲れ。ドンマイ」


挿絵(By みてみん)



 にこにこして労う。こんな調子だから彼は人望に恵まれる。

「悔しいっす……! 音ノ瀬こと、激強……っ。あー、初手からもっと激しい攻勢をかければ」

 頭をがしがし掻く三島と、同様な目の色を二条も浮かべていた。きつく噛み締めた唇は、桜桃の色に染まっている。

 一方、男性陣は女性陣に比べると淡泊だった。

「まー、あるよねー。相手の実力を見誤るってこと。次に活かせば良いんじゃん?」

「岡田はもう少し自省したが良いと思う」

「それは俺にも言えますね」

「水谷のナイフの冴えは相変わらずだったぜ? あれはあちらさんの手腕を褒めるところだろ」

 岡田の慰めともつかない言葉に、水谷は微苦笑する。

「今回は他の課員も出払ってたからなあ。薔薇酒飲む?」

 かたたとらコーポレーション庶務課の名物。

『クマさんの薔薇酒』は、寺原田が自らリキュールと薔薇の乾燥させた花びらを使って拵えた酒で、課員に絶大な人気を誇っている。

「はい! 飲む! 飲みます!」

「俺も」

「私もください」

「はいはい、順番ね~」

 緊張の後の弛緩。皆がやたらはしゃいで見えるのは、それだけ危機感が大きかった反動だと寺原田も解っている。使える課員をより確保しておかなかったのは自分のミスだ。結果、部下たちの自尊心を傷つけてしまった。名に恥じない真紅の酒を硝子コップに注ぎながら、寺原田は反省と今後の課題を思考していた。

 それにしても、と思う。

 天響奥の韻流とは。

 剣の道に邁進する者なら一度は聴く幻の流儀。音ノ瀬ことがその継承者であり、尚且つ音ノ瀬一族の当主であるなど、誰に予想出来ただろうか。

 その荷は重いだろう。

 寺原田は自分の役割を心得ている。心得た上で、自分より年若い女性の負ったものを想像し、同情の念を禁じ得なかった。それは薔薇酒より甘い感傷だと自覚していたけれど。




薔薇酒は寝かせるほどに甘くまろやかな味になります。

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