天響奥の韻流継承者
身体はおさらいを繰り返した舞踊のように、軽やかに動いた。
抜刀して一瞬の後、私は目を見開いた二条を見た。金属と金属が触れ合う。力押しには行かず、私は刃を滑らせると二条の脚を狙った。機動力を削ぐのが目的だ。気づく二条が脚を退き、更に大きく間合いを取る。
「……音ノ瀬当主がコトノハの処方のみに突出するという情報は間違いだったようね」
二条の押し殺した声。私は悲しかった。
刃など振るいたくはなかった。傷つけること、血を流させることは恐ろしい。
けれどそれでは聖たちに汚れ役を押し付けることになる。只でさえ当主という名目のもと、守られてばかりいる私にそれが許されるかと言えば、絶対的に否と叫ぶ私がいる。
脚が無理なら腕を狙う。命あるまま、戦闘不能にする。二条は私のその考えが解ったのだろう。きつく睨みつけて来た。
「甘い覚悟で剣をとるのは相手を侮辱することよ」
「すみません。ですが貴方は私より弱い。戦いにおいて選択権は常に強者にあります」
「言ってくれるわね」
髪の毛が邪魔そうだった。長い栗色の髪は美しく流れ、二条の視界を遮る。
上段から下段に斬り下げる。避けられることを想定してのことだ。案の定、二条はこれをあっさり避け、聖の立つ左から斬りつけて来た。聖を盾として利用しようという、冷静な判断だ。
だが気づいた聖が素早くこれを避け、私の視界を広くしてくれた。私は二条の脚を再び狙った。どうやら二条の言った通り、〝散らす〟異能は物理的には働かないらしい。そうでなければとっくに私の刀は粉々に砕けていただろう。そして。
「縛」
「だから効かないと言っているでしょう」
そう言う二条の顔が凍り付いた。彼女の身体は寸分も動かない。
「そんな」
「ポテンシャルが大きい能力のほうが勝つ。申し訳ありませんが、これでも音ノ瀬一族の当主ですので。……そして私は同時に天響奥の韻流継承者」
聖の背中が物言いたげだ。天響奥の韻流は秘技。その奥義は継承者から継承者へと極めて内密に伝えられる。私の師は私の心を見抜いて、早く次の継承者を見つけるようにと忠告した。
昔の話だ。
私の背中がみじめに憔悴したのは一瞬だった。
自尊心はともかく、身体的には何とか傷つけずに二条を戦闘不能に出来た。私は周りを見渡す。
助太刀の要りそうな仲間を捜した。
うららかな日和でした。
こういう話を書いていると、望まない才能に恵まれた人、
という存在のことを考えます。
それは、本人を幸せにするのか、不幸にするのかと。
例えばケーキ屋さんになりたかったのに、柔道の才能に恵まれてしまったら
どうなるのか(ちょっと違うかな)、などと。




