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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第一章
348/817

戻れない道へ

 美形の物静かな男性は水谷だ。女性のほうは。

「お初にお目に掛かります、音ノ瀬一族の御当主様。私はかたたとらコーポレーション庶務課の二条摩耶。以後、お見知り置きを」

 余り見知り置きたくない。この手のタイプは怖いのだ。私の経験則だが、大抵が実力者であることが多い。聖が素早く私の前に回る。岡田の相手は芳江がしていた。ああ見えて、芳江も遣うほうである。

 摩耶がそんな聖を見て微笑する。

 そして、何もない空間から一振りの日本刀を取り出した。彼女も岡田や撫子ら動揺、空間転移が出来るのである。しかし聖と()するとは思えない。そんな思考を巡らせているとフォールディングナイフが飛来してきた。三本。聖が刀で叩き落とす。携帯性に優れたそのナイフを投擲したのは水谷だった。聖が眉宇をひそめる。手練れ二人を相手に私を守りながらでは聖でも荷が重い。

「聖さん。女性は女性同士ということで。任せて貰えませんか」

「――――解りました」

 二条はにこやかに私たちの遣り取りを聴いている。刀を構えた彼女は足捌き、構え、いずれを取っても美しい所作だ。 


 本当は戦えるんじゃないか?


 コトノハを処方する才はともかく、武術はからきしだった私に、父が投げかけた疑念の一言である。


 こと。お前は、本当は戦える癖に、甘えて逃げているのではないか?


 戦えた。父の疑念は正しかった。只、人を傷つけるのが怖かった。

 聖や秀一郎は薄々察していたと思う。

「撫子さん。無銘で構いません。刀をください」

「――――はい、こと様!」

 投げて遣された刀の重み。

 息を吸って、吐く。親切なことに二条は私の支度が整うまで待っていてくれた。その目は興味深そうに私を見ている。どれ程のものが出来るのか、と測る目だ。刃を抜く前に私は彼女にコトノハを処方した。

(ばく)

 すると二条の周りにきらきらと微細な粒子が舞い落ちた。

「私の異能は異能に類するものを〝散らす〟こと。コトノハにもそれは適用されるの」

 私にさして動揺はなかった。柄を掴む手に力を籠める。

 チキリ、と微かな音がした。

 もう後には戻れない。



ブクマありがとうございます。

本当に嬉しいです。活力を得られます。

そろそろ桜の蕾も綻んでいるでしょうか。

コトノハ薬局で一服していってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで自分が傷つくことはともかく隼太にさえ他者を傷つけることを厭ったことが初めて傷つける覚悟を決めた。
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