戻れない道へ
美形の物静かな男性は水谷だ。女性のほうは。
「お初にお目に掛かります、音ノ瀬一族の御当主様。私はかたたとらコーポレーション庶務課の二条摩耶。以後、お見知り置きを」
余り見知り置きたくない。この手のタイプは怖いのだ。私の経験則だが、大抵が実力者であることが多い。聖が素早く私の前に回る。岡田の相手は芳江がしていた。ああ見えて、芳江も遣うほうである。
摩耶がそんな聖を見て微笑する。
そして、何もない空間から一振りの日本刀を取り出した。彼女も岡田や撫子ら動揺、空間転移が出来るのである。しかし聖と伍するとは思えない。そんな思考を巡らせているとフォールディングナイフが飛来してきた。三本。聖が刀で叩き落とす。携帯性に優れたそのナイフを投擲したのは水谷だった。聖が眉宇をひそめる。手練れ二人を相手に私を守りながらでは聖でも荷が重い。
「聖さん。女性は女性同士ということで。任せて貰えませんか」
「――――解りました」
二条はにこやかに私たちの遣り取りを聴いている。刀を構えた彼女は足捌き、構え、いずれを取っても美しい所作だ。
本当は戦えるんじゃないか?
コトノハを処方する才はともかく、武術はからきしだった私に、父が投げかけた疑念の一言である。
こと。お前は、本当は戦える癖に、甘えて逃げているのではないか?
戦えた。父の疑念は正しかった。只、人を傷つけるのが怖かった。
聖や秀一郎は薄々察していたと思う。
「撫子さん。無銘で構いません。刀をください」
「――――はい、こと様!」
投げて遣された刀の重み。
息を吸って、吐く。親切なことに二条は私の支度が整うまで待っていてくれた。その目は興味深そうに私を見ている。どれ程のものが出来るのか、と測る目だ。刃を抜く前に私は彼女にコトノハを処方した。
「縛」
すると二条の周りにきらきらと微細な粒子が舞い落ちた。
「私の異能は異能に類するものを〝散らす〟こと。コトノハにもそれは適用されるの」
私にさして動揺はなかった。柄を掴む手に力を籠める。
チキリ、と微かな音がした。
もう後には戻れない。
ブクマありがとうございます。
本当に嬉しいです。活力を得られます。
そろそろ桜の蕾も綻んでいるでしょうか。
コトノハ薬局で一服していってください。




