咲く場所
ブクマ等をいただけると本当に励みになります。
春を言祝ぐコトノハが、皆さまに届きますように。
かたたとらコーポレーション庶務課の外、敷地内ぎりぎりのところに、いつ設置されたものか石のベンチがある。その外側には松林。和久はそのベンチに座り、時を過ごすのが好きだった。休憩時間外にこれをするのは職務怠慢だが、寺原田始め社の人間がこれを咎めることはない。和久が最低限、必要な仕事さえすれば上層部もそれで治まる。
野生動物が野を駆けるように、和久にはそうした時間が必要だった。三歳で児童養護施設に預けられた彼は、一人の時間を好む子供だった。花の色を見比べたり風の音を聴いたり、小鳥が戯れるのを飽かず眺めていた。自分の異能に気づいたのは小学校に上がってからで、彼は本能的にこれを隠しておくべきだと悟った。
けれど高校生になる頃、かたたとらコーポレーション社長が理事の一人である高校から、うちの寮に来ないかと打診が来た。もちろん高校通学込みでの話である。和久は自分の異能を知る人間の存在に気づいた。
「和久君。考え事?」
栗色の波打つ髪を軽く手で押さえ、同じ庶務課で和久より三年先輩にあたる二条摩耶が笑いかけた。和久は基本、一人が好きだが、二条はいても良いと和久に思わせる数少ない人間だった。
「隣、良い?」
「どうぞ」
「聴いたわよ。滑り台、運んじゃうんだって?」
「果てしなく気が進みません」
「君の場合の不幸なところは気が進まなくても出来てしまうところね」
「そうですね」
父と母は和久の異能に気づいて和久を捨てたのか。しかし和久は、実際にはそんなドラマチックな理由ではなく、単に生活苦ゆえと考えている。
「宝珠のことも君にとっては良い迷惑なんでしょう」
まさにその通りだったが、流石にここは沈黙しておいた。風が吹いて、松の、緑の濃い香りを運んでくる。
「余り嫌なら私から上に物申してみても良い……」
二条の言葉に和久は軽く目を瞠る。確かに、二条にはそれだけの権限がある。寺原田を越えて、直談判するくらいの。だが和久は軽く頭を振った。
「二条さんがそこまですることないですよ。俺は只……、音ノ瀬とやり合うのに気が進まないだけで」
「君は優しいからね」
どちらかと言えば乾いた口調でそう断じられ、和久は否とも是とも言えなかった。優しいのではない。羨ましいのだ、音ノ瀬一族が。風を伝い風を聴き、コトノハを処方し服用させる。そんな生き方に憧れがある。所詮は宮仕えと言った岡田ではないが、もし自分が花であるなら、咲く場所を選べる花でありたかったと和久は思うのだ。




