パーフェクトレディー
三島花の朝は早い。起きてまず念入りに洗顔し、窓を開けて換気する。
弟と母、そして自分の弁当を作ってから朝食を作る。洗濯機を回してから弟と母を起こし、洗濯物を干す。スーツに着替え、食事をしてから化粧をして家を出る。食器洗いは母たちに任せる。彼らは彼らで朝食を食べると勤めに出る。三島がかたたとらコーポレーションに入ってから家計はそれまでよりぐんと楽になったが、弟は弟で会社勤めを、母は総菜屋でのパートを続けている。三島一人にもたれかかる訳には行かないというのが彼らの持論である。
「ちーっす、くま課長」
「おはよ~三島ちゃん」
「おっす、和久、水谷、いたのか岡田」
「おはようございます」
「おはようございます」
「え~。三島ちゃんひどくね? てか、俺に対してだけ扱いひどくね?」
「気にするな莫迦。事実だボケ」
「否定しようよそこは」
「全員揃ったらミーティング始めるけど、とりあえず今いるメンバーにまず話しとくね」
寺原田ののんびりした口調に、三島たちは目を向ける。目下の話題は宝珠しかない。朝の陽射しが降り注ぐ明るい庶務課の空気が引き締まった。
「今度、山本財団が所蔵するコレクションを市の美術館で展示することになった。その中に宝珠が二点、ある。古伊万里の壺と、江戸中期に描かれた掛け軸だ。予めあちらさんに買い取らせて欲しいと打診したんだけど、断られた。仕方ないね」
寺原田が肩を竦める。
「どうするんすか」
「また部長に掛け合ってみるけど、それでもどうにもならない時は諦めるか……」
「音ノ瀬が手に入れたところを掠めとるか」
ぼそりと言った和久に寺原田がにっこり笑う。
「うん。そういう方針で。あ、和久君。今日、岡田君と一緒に三浦唐松公園に行ってくれるかな」
「果てしなく気が進みません」
「まあ、そう言わず。そこの滑り台が宝珠みたいなのよ。公園の管理者側にはもう了解取り付けてあるから。ね?」
「はあ」
和久の〝はあ〟は嘆息であり返事だった。
「ありがとう。何せ素手で滑り台運べるなんて君くらいしかいないから。空間転移にも限度があるしね」
「美術館のほう、音ノ瀬とぶつかりそうっすね」
「まあ、こっちの態度が態度だから仕方ないね。強硬策は避けたいところなんだけど。とりあえずそういうことで、各々、自分の異能の調節、メンテ、怠りないようにしといて」
応じる声が上がる。
手加減なしのガチ勝負かと思いながら、三島は同時に今日の弁当に入れたたこさんウィンナーはかにさんのほうが良かったかななどとも考えていた。見た目も味も完璧を目指したいのが三島だった。やるからには完璧を期したいのが彼女という人間だった。
「やるからには完璧に勝たせてもらうっすよ。音ノ瀬ことさん」
昨日は春一番だったそうですね。
ようやくと言った感じです。
しかし花粉症の方にはお辛い季節かと思います。
どうぞご自愛くださいませ。




