エネルギッシュな彼女
彼女の目には一瞬だけ同情のようなものが見えた。
が、それは刹那に消え、彼女はスマートな仕草でミントグリーンの、オーストリッチのバッグから名刺入れを取り出し、私に名刺を差し出した。
「お初にお目にかかるっす。かたたとらコーポレーション庶務課の三島花と申します。こちらは水谷景。先日はうちの岡田と和久がお世話になったそうで」
かたたとらコーポレーションの人間だったか。俄かに警戒心が湧く。
「うちも宝珠を捜しておりまして」
「そのようですね」
三島の視線が呉服屋の紙袋にちらりと向く。
「一つ、手に入れられたっすね」
感覚が鋭敏らしい。
「はい」
「水谷、それ仕舞って」
見れば美形の男性のほう、水谷が水色のジャケットの内側から何かを取り出そうとしていた。が、三島のぴしゃりとした声に手を引っ込める。三島の視線が楓に向いた。細い眉がしかめられる。
「貴方のお子さん?」
「違いますが大事な娘です」
「そう……。今回は挨拶に留めておくっす。次にお会いする時は全力で宝珠を獲りに行きますのでお忘れなく」
「ありがとうございます」
「……何が?」
「この子と私の時間を惜しんでくれて」
「――――うちは母子家庭だったんす。それだけ。行きましょう、水谷」
「良いんですか」
「良いのよ」
三島と水谷の後ろ姿が遠ざかる。三島の心の揺れは私にまで伝わって来た。後で上司に叱責されなければ良いが。
そんなことを考えているとバッグの中の携帯が鳴った。
夏の名残がまだあちこちに見受けられる。眩い光の欠片があっちに引っ掛かり、こっちに引っ掛かり。そんな我が家の庭の風情を吹き飛ばすように、その声は響いた。
「ほんま、びっくりしましてん! うち、もっとはよう来たかったんですけど、店を休業するのにもたつきまして。嫌やわあ。年取ると動きが鈍うなって嫌やわあ。それはそうと、こと様、大丈夫なんですか? あれやったら寝てらしたらお粥さんでも作りまっせ、蝶野が」
「何でやねん」
照美咲院撫子は大柄な身体を揺すりながら、マシンガントークを繰り広げた。ふくよかで豊満な彼女の隣には涼し気な美貌の男性が座っている。
蝶野芳江。撫子と同じく、音ノ瀬姓ではないが一族の人間だ。撫子とは幼馴染で、会う度に二人は漫才のような遣り取りを繰り広げる。撫子は土産に持ってきた某有名店のドーナツを自分もわっしと掴み、グロスの光る大きな口に放り込んだ。そのまま口をもしゃもしゃさせてから、ごっくん。
「空間を繋げることなら出来まっせ。うちの得意分野や」
「俺のやろ」
「あんたに出来ることはうちにも出来るんや」
「はいはい」
「撫子さんだけでなく芳江さんも?」
おっと美青年の顔がこちらを向き笑った。百万ボルトの笑顔。
「出来ますよ。元々、大阪の塾でそういうこと教えてはった先生の教室に、二人して通ってましたから。こと様、それで俺らを呼び出しはったんですか?」
「はい。宝珠を同じく求めるかたたとらコーポレーション庶務課の人間に、お二人と同じことが出来る人がいるのです」
撫子が目を瞠る。そうすると濃くマスカラの塗られた睫毛がぐわ、と生き物のように動いた。
「へえ? 生まれつきかいな。独学で身につけたんかいな。後天的なものならえらい勉強家やね」
「ご助力いただけますでしょうか」
「こと様、水臭い水臭い! うちとこと様の仲やないですのん。喜んで尽力しまっせ! どえっふっふっふっふ」
芳江も頷いている。良かった。
しかし撫子の相変わらずの迫力よ。重量級の身体には大砲のような声が搭載され、話す相手を圧倒する。聖などは彼女が苦手で、今日はふるさとのほうへ逃げている。すごく心強いんだけど、何だろう、このエネルギーが吸い取られる感じ。
ブクマ、ご感想ありがとうございます。
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遅いからと言って喜んでない訳では決してありませんので!
撫子さん、腕相撲でそこらの男性をあっさり打ち負かす人です。




