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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第一章
338/817

エネルギッシュな彼女

 彼女の目には一瞬だけ同情のようなものが見えた。

 が、それは刹那に消え、彼女はスマートな仕草でミントグリーンの、オーストリッチのバッグから名刺入れを取り出し、私に名刺を差し出した。

「お初にお目にかかるっす。かたたとらコーポレーション庶務課の三島花と申します。こちらは水谷景。先日はうちの岡田と和久がお世話になったそうで」

 かたたとらコーポレーションの人間だったか。俄かに警戒心が湧く。

「うちも宝珠を捜しておりまして」

「そのようですね」

 三島の視線が呉服屋の紙袋にちらりと向く。

「一つ、手に入れられたっすね」

 感覚が鋭敏らしい。

「はい」

「水谷、それ仕舞って」

 見れば美形の男性のほう、水谷が水色のジャケットの内側から何かを取り出そうとしていた。が、三島のぴしゃりとした声に手を引っ込める。三島の視線が楓に向いた。細い眉がしかめられる。

「貴方のお子さん?」

「違いますが大事な娘です」

「そう……。今回は挨拶に留めておくっす。次にお会いする時は全力で宝珠を獲りに行きますのでお忘れなく」

「ありがとうございます」

「……何が?」

「この子と私の時間を惜しんでくれて」

「――――うちは母子家庭だったんす。それだけ。行きましょう、水谷」

「良いんですか」

「良いのよ」

 三島と水谷の後ろ姿が遠ざかる。三島の心の揺れは私にまで伝わって来た。後で上司に叱責されなければ良いが。

 そんなことを考えているとバッグの中の携帯が鳴った。


 夏の名残がまだあちこちに見受けられる。眩い光の欠片があっちに引っ掛かり、こっちに引っ掛かり。そんな我が家の庭の風情を吹き飛ばすように、その声は響いた。

「ほんま、びっくりしましてん! うち、もっとはよう来たかったんですけど、店を休業するのにもたつきまして。嫌やわあ。年取ると動きが鈍うなって嫌やわあ。それはそうと、こと様、大丈夫なんですか? あれやったら寝てらしたらお粥さんでも作りまっせ、(ちょう)()が」

「何でやねん」

 (てる)美咲院(みさきいん)撫子(なでしこ)は大柄な身体を揺すりながら、マシンガントークを繰り広げた。ふくよかで豊満な彼女の隣には涼し気な美貌の男性が座っている。

 (ちょう)()芳江(よしえ)。撫子と同じく、音ノ瀬姓ではないが一族の人間だ。撫子とは幼馴染で、会う度に二人は漫才のような遣り取りを繰り広げる。撫子は土産に持ってきた某有名店のドーナツを自分もわっしと掴み、グロスの光る大きな口に放り込んだ。そのまま口をもしゃもしゃさせてから、ごっくん。

「空間を繋げることなら出来まっせ。うちの得意分野や」

「俺のやろ」

「あんたに出来ることはうちにも出来るんや」

「はいはい」

「撫子さんだけでなく芳江さんも?」

 おっと美青年の顔がこちらを向き笑った。百万ボルトの笑顔。

「出来ますよ。元々、大阪の塾でそういうこと教えてはった先生の教室に、二人して通ってましたから。こと様、それで俺らを呼び出しはったんですか?」

「はい。宝珠を同じく求めるかたたとらコーポレーション庶務課の人間に、お二人と同じことが出来る人がいるのです」

 撫子が目を瞠る。そうすると濃くマスカラの塗られた睫毛がぐわ、と生き物のように動いた。

「へえ? 生まれつきかいな。独学で身につけたんかいな。後天的なものならえらい勉強家やね」

「ご助力いただけますでしょうか」

「こと様、水臭い水臭い! うちとこと様の仲やないですのん。喜んで尽力しまっせ! どえっふっふっふっふ」

 芳江も頷いている。良かった。

 しかし撫子の相変わらずの迫力よ。重量級の身体には大砲のような声が搭載(とうさい)され、話す相手を圧倒する。聖などは彼女が苦手で、今日はふるさとのほうへ逃げている。すごく心強いんだけど、何だろう、このエネルギーが吸い取られる感じ。

  


ブクマ、ご感想ありがとうございます。

感想返信はのんびりお待ちください。

遅いからと言って喜んでない訳では決してありませんので!

撫子さん、腕相撲でそこらの男性をあっさり打ち負かす人です。

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