おねだり
待ち合わせ場所の喫茶店に着いた恭司の目に入った楓は、どこか今までより変わって見えた。彼女の向かいの椅子に座り、マスターが水を運んで来たタイミングで薫を注文した。
「待ったか?」
「ううん」
恭司の問いに、楓がふるふると首を振る。さら、と、艶のある髪が流れた。子供が育つのは早い、と恭司は柄にもなく感じる。楓は、この二、三年でぐんと大人びた。もう数年もすれば匂い立つような女性になるだろう。
音ノ瀬ことは、それを見られないかもしれない。
楓は静かだった。
いつも、騒いだりはしない少女だが、今日はとりわけ静寂が彼女を覆っていた。恭司はこうした類の静寂を知っている。心決めた者の、凛とした空気。
運ばれてきた薫を一口飲む。
「恭司君」
「何だ」
「誕生日プレゼントをおねだりしても良いですか」
楓の誕生日はまだ先だが、恭司は以前より、欲しい物があれば言えと楓に催促していた。楓はその度、要らないよと言って微笑んだ。おねだり、という言葉は楓からは遠く、だからこその落差に、恭司はつい破顔した。
「良いよ」
「宝珠をください」
「…………音ノ瀬こと、だな」
「うん」
恭司はもう一口、薫を飲む。心なし、味が先程とは変わって感じられた。
「ことさんがいなくなったら、きっと私、壊れてしまう」
「……」
「ことさんが私の運命の分岐点だった。ことさんと出逢わなければ、きっと私は終わってた。だからことさんの為なら何でもするって決めてたの」
楓は本気だ。
恭司は、自分よりはるかに年下の少女にプレッシャーを感じていた。ことが楓の運命の分岐点なら、今現在が自分の運命の分岐点なのかもしれない。カードを揃えてみせろと言った。隼太から何としてでも宝珠をもぎ取ること。
恭司の中にある天秤の片方に隼太がいて、もう片方には楓がいた。
天秤は揺れ動き、やがてゆっくりと位置を定め鎮まった。
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寒い日が続きますが、植物たちはもう芽吹きの用意に
入っていると思います。近所の白梅は、今が見頃です。




