Life,life,life…
楓がいなければ、私はもっと簡単に生を諦めていたかもしれない。
聖を遺して逝くことに対する罪悪感こそあれ、そもそも聖は私より長命であろうから、そこまでしがみつく我執が持てないのだ。けれど私は楓と逢ってしまった。あの子を、愛おしい存在として抱き締めてしまった。
死ねない。まだ死ねない。楓を置いて逝けない。
だって私が今死ねば、楓はずっと泣き続けるだろうから。慢心ではなくそう確信出来る。石にかじりついてでも、私は生きねばならない。
不思議なことに、人は死を意識すると物事が透明度を増して見えるようになる。視点が細かくなると言うのか。今日は穏やかな風が吹いて、下草がそよそよ揺れている。その一本一本に瑞々しさを感じる。薄紫の翅を持つ小さな蝶が飛んでいる。桜の葉はもうしばらくすると紅葉するだろう。釣忍が間を置きながら鳴っている。私の右に聖が座り、左に楓が座っていた。宝珠を捜しに行こうと、誰も口にしない。諦めているのではなく、今はこの時間が至上と感じているだけだ。
お父さん。お母さん。
過ちを犯した私が、もう少しの時間、そちらではなくこちらに留まることを許してくれますか。
誰より厳しかったお父さん。
貴方が私の失態を知れば、きっときつく叱責したでしょう。
いいえ、その価値すらないと見離したかもしれない。
お母さん。
貴方が私に抱く感情は複雑で、単純な母の温もりに安らいだ記憶は少ない。
貴方もまた、お父さんとは違った意味で厳しい人でした。
愛に溺れた者の愚かな末路と、そのくらい言ってのけたかもしれません。
ごめんね。
まだいけないよ。
まだまだ、私は醜く生きるよ。
「聖さん。楓さん」
左右から視線を受ける。
「私は本気で宝珠を集めます。どうか、協力してください」
聖の左手が私の右手を、楓の右手が私の左手を握った。その握力はきつく、痛いくらいだというのに、私はその快さに陶酔した。この先どれだけの困難が待ち受けているとしても。
私は生きる。
ブクマありがとうございます!嬉しいです。
今日は冷たい風の強く吹く日でした。
皆さま、飛ばされませんように…。




