お掃除
丁度気持ちの良い季節になってきた。楓の学校はとうに始まり、私と聖と楓は三人でその前にちょっとした小旅行に行った。まだ蝉こそ鳴いているものの、彼らの命もあと僅かだろう。
動きやすい服装で、私は欄間や箪笥の上にはたきをかけていた。気配を感じて後ろを振り返るとゴロゴロ―、ゴロゴロ―、と、もーちゃんが転がっている。
「何をしているんですか」
思わず抱き上げると、きょとりとした目が答えた。
「お掃除」
成程、天然のモップか。しかしこれではもーちゃんが埃まみれになってしまい、もーちゃんを洗う必要が出てくる。まあ可愛いから良いかという凡そ理屈になってない結論に私は帰着した。
家の中を風が吹き抜ける。
少し前までの風は色で言うなら橙だった。今であれば水色だろうか。風に髪を揺らされながら、私はもーちゃんをひとまず置いて、掃除を続けた。聖は風呂場を洗ってくれている。
「で、音ノ瀬の御当主はどうしている?」
「……お掃除」
「成程、お掃除か。それは大事なことだ」
ことの家から離れた丘の中腹、風の吹き抜け草の踊る場所に二人のスーツ姿の男がいた。
「菅谷は底意地を見せているな。あそこは昴と麒麟が何とかするだろう。問題は音ノ瀬だ」
「なあ、岡田。音ノ瀬にまでちょっかいを掛ける必要があるのか? 正直俺は、コトノハ使いとはやりあいたくない」
「ボスが宝珠をもっと寄越せとさ。しがない宮仕え、お上のご意向には逆らえないだろう? 和久」
剣呑な会話内容を他所にさわさわと風は吹く。
「……俺は、川のせせらぎとか、鳥の声とか、今吹いてるような風とか、そんなのが好きだ。音ノ瀬は、そういうのに近い。嫌なんだよ。敵対するのは」
岡田が黒い目で、自分より色素の薄い和久の目を見た。
それからくしゃりと髪の毛を掴む。そのままわしゃわしゃと乱してくるので和久もついに声を荒げた。
「おい!」
「お前は良いよ、それで。汚れ仕事は俺がやる」
岡田はポケットから煙草とライターを取り出し、火を点けるとふっ、と空に煙を吐いた。
季節の変わり目です。
ご自愛くださいませ。




