表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第三章
317/817

置き去りと優しさ

 私は聖と昴に紫具羅の相手を任せ、桜たちと先を急いでいた。

 置いて来てしまった。

 その一言が私の心にずしりと根を張っていた。

 いつの頃からか、父に折りに触れ言われたことがある。時には置き去りにすることが肝要な時がある。それが頂点に立つ者の宿命であり業であると。

〝お父さんやお母さんでも?〟

〝それは関係ないことだ〟

〝ウサギさんでも?〟

 私がそう問いかけた時、父は黙った。今なら判る。父の返答は、当然、「是」だったのだ。だが、それを私に伝える非情さを躊躇った。父にしては珍しいことだ。でも、お父さん。今でも、身を翻したい私がいる。聖の元に駆けつけたい私がいる。再び彼に万一のことがあったらと、泣き叫びたい程に不安な私がいる。前から思っていた。そう、聖を甦らせる禁呪を行ったように、私は当主失格なのではないかと。あの一件のあと、私は一族の主立った者たちに私を裁くよう告げた。願った、と言ったほうが近いかもしれない。

 なのに誰もが首を縦には振らなかった。彼らは図ったように、皆一様にして言ったのだ。

 当主もまた人なのだから、と。


「もうすぐです」

 桜の言葉に頷く。なぜかしら誰かに叱られたような心地で。



 銀色の狼は俊敏な動きで聖たちを翻弄した。牙と爪は際立って鋭く、一撃を喰らえば致命傷にもなり得ると思われた。それでもまだ、昴の存在に遠慮してか、紫具羅の攻撃はどこか控えめだった。聖が何度かコトノハを処方しようとしたが、その度に紫具羅は聖に飛び掛かり、威嚇してはそれを邪魔した。

「音ノ瀬の。ちょっと退いてくれ」

 言われるままに聖が避けると、昴が前に出る。聖としては、絆のありそうな彼らが傷つけ合う事態となることを憂慮していた。ついに、紫具羅が昴に飛び掛かり、その咽喉に牙を立てようとした。即ちそれは、聖に対して隙が生じる瞬間だった。

(ばく)

「木は木に、火は火に、土は土に、金は金に、水は水に」

 紫具羅が目を見開いた。

 次の瞬間、狼の輪郭は揺らぎ、銀で出来た呪符がゴトリと床に落ちた。

「紫具羅の本体だ」

 昴はその呪符を大事そうに拾い上げた。

「よし、よし。お前はよくやったよ。しばらく眠れ」

 呪符の表面を慈しむように撫でてから、聖を見る。

「俺は桜たちを追う。親父のところに行くが、あんたは手負いだ。どうする?」

「行く」


 迷いなく即答した。負い目を感じていることの表情が、聖の脳裏に蘇る。聖は昔から考えていた。心優しい当主がいては駄目なのだろうか、と。姉である真葛に意見を求めたこともある。彼女は、沈黙の後、答えた。上に立つには強さが何より必須。優しさは誰よりまず先に、当主自身を殺してしまいかねないから。でも、情はつわものをも惹きつける。それもまた、強さだと私は思う。

 そう言い切った真葛の微笑を、聖は今でも信じている。



良きコトノハをお召し上がりください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ