血は語る
集って来る、と刃を振り下ろしながら祐善は感じた。秀一郎はこれを擦り流しながら受け留めた。小癪な若造だ。そして才気に溢れている。もう数年、剣の道だけに邁進すればどれだけ大成することか。
その思考の横で、陰陽師としての祐善はこの座敷に若い力たちが集結しつつあることを感じていた。それはまるで何かに吸い寄せられる星々のようにそれぞれが眩しい輝きを放っていた。
秀一郎の眼鏡が吹っ飛んだ。
それでも臆さず刺突を繰り出す秀一郎を、祐善は見事と心中で讃えた。
隼太は腕組みして静観を決め込んでいる。
顧みればほんの少し昔だったようにも、はるか遠い昔だったようにも思える。この女性と添い遂げると、胸に誓った人がいた。優しい人だった。その為に自らを損ないはしないかと祐善は心配したくらいだったが、彼女の優しさに救われたのは変えようのない事実だった。
古来より陰陽の流れを脈々と受け継ぐ菅谷家では、未だに家父長制が根強く、父は絶対君主であると同時に圧政を強いる王だった。祐善は父と母の笑顔を見たことがない。抱き締められた記憶もない。祐善を育てたのは小柄で真っ白な髪をした痩せた老婆だった。人の温もりというものを、祐善が得られたのはその老婆がいたからに他ならない。幸いにも祐善には陰陽師としての資質、他、武芸の才もあり、父から菅谷家の次期後継と認められた。
遅咲きの恋はその頃に訪れた。
些細なきっかけで知り合ったその女性に、祐善は生まれて初めてのめりこんだ。夢中になった。陰陽より剣道より弓道より夢中になるものを知った。老婆は、祐善の恋の後押しをした。欠けた前歯を見せて、ようございました、ほんにようございましたな若様と涙を零した。老婆は、祐善が人並みに恋愛が出来るかどうか危ぶんでいたらしい。
父に、話をした。
祐善が熱弁を振るう間中、父は黙って聴いていた。父は祐善に一言、解った、とだけ告げた。その時、なぜか祐善の背筋に震えが走った。季節は夏だった。理解出来ない震えだった。
翌日、祐善が独自に築いた結界が激しい警鐘を鳴らした。父の私室の一つで異変が起きている。
駆け付けた祐善が見たものは、誰より愛しい女性と、誰より慕わしい老婆の、亡骸だった。血は、部屋を染める程には流れていなかった。けれど二人の死は厳然として動かしようのない事実だった。
父が着物を整えていた。女性の、太腿までめくれ上がったスカート。着衣の乱れ。
何が起きたのか、一目瞭然だった。父親はおもむろに口を開いた。
悪くない女だったが、菅谷には相応しくない。
そこから先の記憶は飛んで、気づけば亡骸は二つから三つへと増え、祐善の手には鮮血があった。
「何が解るものか! 若造共に!!」
祐善の咆哮を、秀一郎は獅子の雄叫びのようだと思った。剣戟はより速く激しく、防ぎ、しのぐことで手一杯だ。
祐善の袈裟懸けを防ぎ損ね、胸から血の花がしぶいた時にも、秀一郎は只、ことの身の上を案じていた。激痛は感じない。麻痺しているのか。




