情を語る刃
「思った通り、君は素人ではないな」
秀一郎が刀を掴んで身を起こした時、祐善が言った。
「刀を手にした時の体幹がぶれない。逆に丹田に力が入っている」
鷹揚な物言いは、自分が強者であると確信していることからの余裕だった。実際、秀一郎は剣道の有段者だった。だが、真剣を扱うのはこれが初めてだ。チキ、という音と同時に白刃を抜く。抜かせてもらう。祐善がこの瞬間に秀一郎に殺到しても何ら不思議ではないのだ。だが祐善は持てる者の優越で秀一郎の抜刀を許した。そうした油断の積み重ねが、今の菅谷の凋落を物語っているのではないかと秀一郎は頭の隅で思う。とにもかくにも目前の菅谷祐善をどうにかしなければならない。
「言っておくが私にコトノハは通じんよ。耐性があるからな」
「……」
なぜ刀を用意していたのだろうと秀一郎は不思議に思う。これではどちらかが血の海に倒れることを望んでいるかのようだ。それとも祐善はそこまでを求めているのだろうか。ことはとかく人が傷つかない方向を行こうとするが、祐善はその真逆のようだ。
ぐん、と祐善が腰を低くしたと思ったら秀一郎に向けて一閃、放った。秀一郎はこれを刃で弾き、可能な限りの間合いを取った。が、祐善が追撃する。袈裟懸けに斬られそうになったところを身をよじって避け、刀を握る祐善の手を目掛けて蹴りを放つ。秀一郎の脚は空しく宙を斬った。
「なぜ桜さんの意思を尊重しないのですか?」
「尊重しているとも。今回の縁談もあれは承知している」
「……それは貴方を愛しているからだ。親としての情を、無駄と知りつつそれでも期待して求めてしまうからだ」
「君は桜を好いているのかね」
「異性としての意味であるなら、いいえ」
「ならば他人は口を噤んでいてもらおう」
最もな理屈ではあった。再び祐善の刀が宙に閃く。その切っ先が秀一郎に届く前に、秀一郎は前蹴りを放ち、これは祐善の腹部に命中した。今度は祐善が退いて間合いを取る。秀一郎は刀を逆刃に持ち、先程、祐善を蹴ったところを薙いだ。刀には強化の呪が施してあった。秀一郎には祐善という男が謎だった。ここまで好戦的でありながら闖入者である秀一郎にも命の逃亡を許す。彼はもっと傲慢で、冷酷な男ではなかったか。秀一郎は試してみることにした。
「祐善さん。喪われた命は戻らない。貴方が愛した人を亡くした痛手を、僕は想像することしか出来ませんが、地獄に等しかったのではないかと。けれどその痛苦を、奥さんや子供さんたちに向けた圧政と替えることは筋が違う。貴方は貴方自身すら大切にしていないではありませんか。今からでも遅くない。お子さんたちと和解し、……彼らを愛してやってください」
凝固していた祐善の肩がぴくりと動いた。
ブクマ、評価、ご感想など頂けると励みになります。
いつもありがとうございます。
コトノハにくるまってお休みください。
筆者の病状芳しからず、更新が遅れるかもしれません。
ご容赦ください。




