マッド・ティーパーティー
私はぱちりと目を覚ました。どうやらほんの数秒、眠っていたらしい。桜の偽物にしてやられたことを思い出し、四方を見渡す。あたりは一面、白い花々が咲き乱れていた。清浄の白がどこかしらグロテスクを感じさせ、漂う芳香も嘘臭い。
「お目覚めかな姫君」
テノールに首を巡らせれば、長方形の、白いクロスが掛かったテーブルにスーツを着込んだ男が脚を組んで座っている。スーツは目がチカチカするような蛍光の黄緑で、襟元には大きな赤と白のストライプのリボン。中央に精緻な細工の大振りなカメオ。ブーツの先端が磨き上げたように艶やかに光り、全体的にとても印象に残る装いをしている。
「貴方は……」
「先程、桜様に扮していた者だよ、姫君。お茶は何が良い? アッサム、ダージリン、アールグレイー、それともニルギリ?」
ようやく腹が据わってきた私は示された椅子に着いた。椅子も装飾的で深い彫りが施され、職人の息吹を感じる。ここは亜空間。仮初の場所だというのに。
「私を元の場所に帰していただきたい」
断固とした声で要求したが、男は私を一瞥しただけでポットに湯を注ぐ手を止めようとはしなかった。
「なぜ?」
「なぜ?」
「そう。なぜ君は桜様を連れ出そうとするのか。私の主は菅谷祐善様お一人。そして祐善様はそのようなことをお望みではない。であれば、私が君を帰す道理もないな。まあそう気張らず。肩の力を抜いてお茶会に興じなさいな」
私はテーブルクロスを自然、握り締めていた。
「祐善さんの式神……」
「然り」
「なぜあの人を独りにしたのですか」
「言っている意味が解らないな」
「いいえ、お解りの筈です。祐善さんは血塗れの道にぽつねんと佇んでいる。寄り添う者がいたとすれば貴方たち式神だけだったでしょうに、なぜ放置しておくのですか」
「一つ。主は式神に干渉出来るが、式神は主に干渉出来ない。一つ。祐善様がお決めになられたことは絶対だ。私たちに口出しする権限もない」
「――――子供の死さえ失念していたのですよ。彼は」
「君は物忘れをしたことがないか? あるだろう? 生きているとはそういうことだ。……祐善様が勇魚様の死に揺らぐようであれば、あの方はもっと早くに潰れていた。時には目を逸らすことも生きる手段だよ」
納得出来なかった。
それでは余りに勇魚が救われない。男は何を思うか解らない無感情な双眸で私を見ていた。
「お茶を飲んだら帰りなさい。君のように情の深い人間は、早晩、搦め取られて溺れ死んでしまうよ」
体調不良ゆえ乱筆などがお目につけばご容赦ください。
優しいコトノハを服用ください。




