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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第三章
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光よ

 術の作動する気配を、聖も秀一郎も麒麟も感じた。

「ことちゃん一人を先に行かせたのは早計だったかも」

「僕が追う」

 聖が秀一郎たちの返事を聴かずに駆けてゆく。

 秀一郎と麒麟はそれぞれ二手に分かれた。ことへの、またはことを追った聖への追撃を分散させる目的である。広大な屋敷はそれ自体が迷路のようで、見取り図を頭に叩き込んでおかなければ邸内で迷うことになっただろう。麒麟は慣れ親しんだ家なので問題ないだろうが、秀一郎は事前情報がなければ動けなかった。駆ける麒麟の脚が止まる。

「昴……」

「兄さんって言えよ。糞弟」

「そこを退いてくれ」

「嫌だね」

「桜姉さんは見合いを嫌がってる。想う相手がいるんだ」

 一瞬、昴の面が揺らいだ。しかし躊躇なく呪符を取り出し、己の前半円を囲むように林立させる。

「昴!」

「親父の考えだ。桜も納得ずくだ」

 その言葉は昴自身を納得させようとするかのようだった。そして事実、それはそうなのだろうと麒麟は思った。呪符が炎となり麒麟に襲い掛かる。が、炎は麒麟に届く前に水の塊により霧散した。水草が主を守るようにふわりと浮いて姿を現す。昴の表情が歪む。昴は昔から桜の緑王丸と麒麟の水草を羨ましがっていた。その心理をも利用した、麒麟の術である。

「俺は。兄さん。あんたが嫌いじゃなかった。人一倍、陰陽術の研鑽を積んでいるのも知っていたし、努力家な面は俺には見倣うべきところだとも思っていた」

「嫌味かよ」

「違う。なあ、兄さん。この家はもう駄目だ。親父と一緒に船は沈む。あんただって、薄々解ってるんだろう?」

 シュルシュル、シュルシュル、と植物の蔦が昴の手から生み出される。それは麒麟を急襲して締め上げようとする。麒麟は可能な限り後退してこれを避けた。水草が短刀でこれを斬る。

「光よ。彼の哀れなる者に慈悲をもたらせ」

 麒麟が呪言を紡ぐと、眩い光があたりに満ちた。堪らず、昴が顔を腕で覆う。その腕に、小さなスクリーンが浮かんでいた。

〝ねえ、お母さん。旅行ってどのくらい? お土産買ってきてくれる?〟

〝二、三日くらいよ。昴。ええ、もちろんお土産を買ってくるわ〟

〝やった!〟


 それは昴の為だけの上映会だった。術を施した麒麟は苦い思いだった。自分もまた、昴同様、母を失くした身だからである。同種の術を、嘗て大海が聖に掛けたことなど知る由もない。


〝あれはもう帰らん。諦めて陰陽術を磨け〟


 父・祐善の非情な言葉。母を追い詰めた張本人は、何の痛痒も感じない顔でそれを告げた。昴が七歳の頃だった。

「もう良い、止めろ」

 それでも腕のスクリーンは時を紡ぎ続ける。

「止めろと言っている!」

「桜姉さんを救うのに協力してくれ」

「出来ない」

「昴」

 腕のスクリーンが消える。それを注視していた昴は、はっと顔を上げる。いつの間にかそこには誰もいなかった。只、紙の人形(ひとがた)だけが床にはらりと落ちていた。


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いつもありがとうございます。

コトノハが寒風をしのぐ盾となりますように。

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