真っ白い闇
翌日、夜。
私と聖、秀一郎と麒麟は菅谷邸に忍び込んだ。桜の見合いの前日のことである。最も警備が厚くなるのは見合い当日であろうことから、その裏を掻いた。虫が鳴いていた。それ以外の物音のほとんど聴こえない静かな夜だった。
「ことちゃんは桜姉さんの部屋に向かって」
これは手筈通りである。私が桜を連れ出して来る間、麒麟たちには時間を稼いでもらう。私は動きやすいシャツにストレッチジーンズという軽装だった。麒麟に向かい頷くと、廊下を南の方角に進んだ。飴色に磨き込まれた廊下は滑りそうな艶めきだ。洒落にならないなと思いながら、尚も歩みを進める。途中に青磁の壺や真紅の硝子細工などが飾られていた。祐善の趣味だろう。相当、高価な物だろうが悪くない。
ふわり、と白い塊が落下した。烏帽子に狩衣を纏った少年だった。髪も瞳も装束も全てが白い。唯一点、唇だけがやたら紅を強調している。
式神だ。
避けた積りが遭遇した。止むを得ない。チキリと白い鞘から刀を抜く少年の顔は凪いだ湖のようだった。一閃、これをかわす。殺気は感じられないが、対峙する相手を殺傷するに迷いのない剣筋だった。聖や秀一郎であれば難なくいなしたであろうこの攻撃を、私は冷や汗をかきながら辛うじて避けた。
そしてやっとコトノハを処方出来る数秒を見逃さなかった。
「縛」
白い狩衣の少年の式神は、私のコトノハを服用して動かなくなった。追って来ないことを確認して先を急ぐ。胸の鼓動が煩い。緊張が私の四肢の動きを固くしている。
やがて桜の部屋の前まで来て、私は大きく息を吐いた。
「桜さん。音ノ瀬ことです」
「ことさん!?」
襖が勢いよく開かれる。
その時、姿を現した桜に、私はどこと言い様のない違和感を覚えた。
「ことさん。待ってたわ」
〝桜〟がにい、と笑う。違う、これは桜ではない。部屋の奥から声がする。
「ことさん、逃げて! それは私ではありません、父の謀略です。麒麟、あの子はどこ? あの子と離れてはいけなかったのに」
桜によく似た偽者が私にもたれかかり腕を搦め取る。
ガコン、という音がして、私は真っ白い闇に落ちていった。
ブクマ、評価、ご感想など頂けると励みになります。
いつもありがとうございます。
当薬局で少しでも暖をとって行ってください。




