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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第三章
305/817

真っ白い闇

 翌日、夜。

 私と聖、秀一郎と麒麟は菅谷邸に忍び込んだ。桜の見合いの前日のことである。最も警備が厚くなるのは見合い当日であろうことから、その裏を掻いた。虫が鳴いていた。それ以外の物音のほとんど聴こえない静かな夜だった。

「ことちゃんは桜姉さんの部屋に向かって」

 これは手筈通りである。私が桜を連れ出して来る間、麒麟たちには時間を稼いでもらう。私は動きやすいシャツにストレッチジーンズという軽装だった。麒麟に向かい頷くと、廊下を南の方角に進んだ。飴色に磨き込まれた廊下は滑りそうな艶めきだ。洒落にならないなと思いながら、尚も歩みを進める。途中に青磁の壺や真紅の硝子細工などが飾られていた。祐善の趣味だろう。相当、高価な物だろうが悪くない。


 ふわり、と白い塊が落下した。烏帽子に狩衣を纏った少年だった。髪も瞳も装束も全てが白い。唯一点、唇だけがやたら紅を強調している。

 式神だ。

 避けた積りが遭遇した。止むを得ない。チキリと白い鞘から刀を抜く少年の顔は凪いだ湖のようだった。一閃、これをかわす。殺気は感じられないが、対峙する相手を殺傷するに迷いのない剣筋だった。聖や秀一郎であれば難なくいなしたであろうこの攻撃を、私は冷や汗をかきながら辛うじて避けた。

 そしてやっとコトノハを処方出来る数秒を見逃さなかった。

(ばく)

 白い狩衣の少年の式神は、私のコトノハを服用して動かなくなった。追って来ないことを確認して先を急ぐ。胸の鼓動が煩い。緊張が私の四肢の動きを固くしている。

 やがて桜の部屋の前まで来て、私は大きく息を吐いた。

「桜さん。音ノ瀬ことです」

「ことさん!?」

 襖が勢いよく開かれる。

 その時、姿を現した桜に、私はどこと言い様のない違和感を覚えた。

「ことさん。待ってたわ」

 〝桜〟がにい、と笑う。違う、これは桜ではない。部屋の奥から声がする。

「ことさん、逃げて! それは私ではありません、父の謀略です。麒麟、あの子はどこ? あの子と離れてはいけなかったのに」

 桜によく似た偽者が私にもたれかかり腕を搦め取る。

 ガコン、という音がして、私は真っ白い闇に落ちていった。



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いつもありがとうございます。

当薬局で少しでも暖をとって行ってください。

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