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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第三章
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レミーマルタン

 桜の見合いの日の、警護を祐善に頼まれた時、隼太は軽く驚いた。祐善の高い自尊心から鑑みれば、意外な発言だったからである。それだけ必死ということかと、突き放した思考を持つ。ことたちが来るかもしれない。哀れな籠の鳥を助けに。ことは隼太から見れば笑えるような甘さと義侠心を持っているから。では、ことと菅谷邸で鉢合わせしたらどうするか? そこのところを隼太は考えあぐねている。傍観して見逃してやっても良いし、コトノハで妨害してやっても良い。いずれにしろ隼太はその時の気分に任せることにして、祐善には諾と答えてやった。

 ことの持つ甘さは、一族の長としては致命的だ。だが、そんな彼女だからこそついていく人間がいる。難しい兼ね合いだと思いつつ、隼太はレミーマルタンを口に含んだ。

 ふと、自分を見る大海に気づく。透明な眼差しは静かに息子を捉えている。

「何だ、大海」

「磨理は死んだんだ」

 藪から棒に何を、と思いグラスを置く。

「祐善の想い人も死んだ。殺された。僕は祐善が理解出来ない訳じゃない。でも、同情に流されるのはお止めよ、隼太」

 これは正気のほうの大海だ。稀に出るこの父親の正常に、隼太は調子を狂わされる。

「もし母さんが殺されたのだったとしたら、お前はどうした?」

「愚問だね。相手を殺すよ。考え得る限り、苛烈な方法で。だから、ねえ、隼太。祐善の仕儀は至極当然のことではあったんだよ。けれどだからと言って、無法を働いて良い理由にはならない。祐善はやり過ぎた。あそこまで行けば待つのは光の射さない暗闇だ」

「今日はまたよく喋るな。俺が祐善に同情する心配はない。卑小な愚物だ、あれは」

「そう、うん。なら良いんだけど。ねえ、お酒、僕にもくれない」

 レミーマルタンは希少だ。

 だが隼太は、いつになく父親らしい言葉を連ねた大海に、労いの思いも籠めて新しいグラスに注いでやった。磨理がもし生きていたなら、大海は狂うこともなく、常時今のようであったのだろう。そして自分は隼人の狂気に苦しむこともなく、フォーゲルフライの理想も抱かなかっただろう。若くして死んだ母親の、朧げな記憶を思い出す時、隼太はいつも奇妙な感覚に襲われる。



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