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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第三章
303/817

過去に逢いたかったね

「結界の気配は」

「薄弱ですね。祐善の力の衰えの現れでしょう」


 私は、聖と秀一郎と共に菅谷邸に乗り込む算段をしていた。夏のねっとりした黒く濃い空気は密談に相応しい。

「あちらの戦力はどの程度になりますか」

「沈む船から鼠が去るように、多くの術者は見切りをつけて去っています。祐善にはさぞ業腹でしょう」

「自業自得ですね」

 くい、と気付け代わりの酎ハイを口に含む。私は普段、日本酒を主に好むが、たまにこうした軽いアルコールも飲みたくなる。

「見合いは明後日、行われるようです」

「急いでいますね」

 それだけ必死ということか。桜を贄に差し出すことに。

「祐善は無理ですよ」

 私と秀一郎の遣り取りに、聖が静かに口を挟んだ。赤い目は私を見ている。

「祐善までをも救おうなどと考えないでください。全ての元凶が彼とは言いません。生い立ちから考えれば斟酌の余地はあるでしょう。けれど、彼は手遅れです」

「……解っています」

「ならばよろしいのですが。こと様は無理を承知で強行するところがおありだから」

 同じく私を見る秀一郎の目に同意の色が浮かぶ。


 知っているよ。


 世界が私にそれ程優しくないことくらい、もう昔に学んでいる。

 後継候補として甘えを許されず育てられた時。

 両親が戻らなかった時。


「詳しい見取り図は麒麟さんから預かっています」

 私は感傷を振り切るように一枚の紙を取り出した。

「式神がいるポイントがこの赤い点で記されたところです。なるべく鉢合わせしないよう避けましょう」

「麒麟君も参加を?」

「ええ。彼にとってはこれで完全に父親に逆らうことになる訳ですが。麒麟さんも祐善さんには思うところが幾つもあるようですからね」


 虫が鳴き始めたな。すだく命の音色。


 救われない話など五万とある。

 だから、私は祐善を切る。


 惜しむらくは、彼がもっと若い頃に出逢えなかったことだ。



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いつもありがとうございます。

まだまだ風は冷たいです。お風邪を召されぬよう良いコトノハを服用ください。

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