過去に逢いたかったね
「結界の気配は」
「薄弱ですね。祐善の力の衰えの現れでしょう」
私は、聖と秀一郎と共に菅谷邸に乗り込む算段をしていた。夏のねっとりした黒く濃い空気は密談に相応しい。
「あちらの戦力はどの程度になりますか」
「沈む船から鼠が去るように、多くの術者は見切りをつけて去っています。祐善にはさぞ業腹でしょう」
「自業自得ですね」
くい、と気付け代わりの酎ハイを口に含む。私は普段、日本酒を主に好むが、たまにこうした軽いアルコールも飲みたくなる。
「見合いは明後日、行われるようです」
「急いでいますね」
それだけ必死ということか。桜を贄に差し出すことに。
「祐善は無理ですよ」
私と秀一郎の遣り取りに、聖が静かに口を挟んだ。赤い目は私を見ている。
「祐善までをも救おうなどと考えないでください。全ての元凶が彼とは言いません。生い立ちから考えれば斟酌の余地はあるでしょう。けれど、彼は手遅れです」
「……解っています」
「ならばよろしいのですが。こと様は無理を承知で強行するところがおありだから」
同じく私を見る秀一郎の目に同意の色が浮かぶ。
知っているよ。
世界が私にそれ程優しくないことくらい、もう昔に学んでいる。
後継候補として甘えを許されず育てられた時。
両親が戻らなかった時。
「詳しい見取り図は麒麟さんから預かっています」
私は感傷を振り切るように一枚の紙を取り出した。
「式神がいるポイントがこの赤い点で記されたところです。なるべく鉢合わせしないよう避けましょう」
「麒麟君も参加を?」
「ええ。彼にとってはこれで完全に父親に逆らうことになる訳ですが。麒麟さんも祐善さんには思うところが幾つもあるようですからね」
虫が鳴き始めたな。すだく命の音色。
救われない話など五万とある。
だから、私は祐善を切る。
惜しむらくは、彼がもっと若い頃に出逢えなかったことだ。
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いつもありがとうございます。
まだまだ風は冷たいです。お風邪を召されぬよう良いコトノハを服用ください。




