花の一生
その後、流れで秀一郎も含め、聖、楓、桜、もーちゃんと朝食を摂った。秀一郎の来訪が、偶然によるものなのかどうかは解らないが、ひとまずあの場は救われた。二人して語らうこともあるだろうと、私と聖は私たちの寝室へ、楓は自分の部屋に籠り、客間は桜と秀一郎だけになった。
甘さが青の中に流れている。桜は供された緑茶を飲みながら改めて秀一郎を眺めた。白い三つ揃い。鼈甲ぶち眼鏡。他の人間がやれば浮いてしまうであろう恰好を、難なく己のものとしている。彼に秋波を送る女性は多いだろう。
そう考えると、その見も知らない女性たちに嫉妬を覚え、そんな自分を恥じる。秀一郎が桜を見る眼差しは優しかった。そのことに溺れてはならないと自分を戒める。
「菅谷は大変なことになっていますね」
「はい。……父の行いの報いです」
「その報いの為に貴方が犠牲になるお積りですか」
「私は無力です。出来ることはそのくらいしかない」
「ことさんが悲しまれますよ」
「きっとそうでしょうね。彼女は優しい人です」
「僕も悲しむでしょう」
「――――私の気持ちをご存じでそう言う。罪な方」
「僕は……」
秀一郎が鼈甲ぶち眼鏡を外した。外した眼鏡のレンズを見ながら語る。
「ことさんが好きです。この想いは終生、変わらないでしょう。けれど貴方に幸せになって欲しいとも思う。どちらも真実です」
桜が泣き笑いのような表情になった。
「何て優しく、そして残酷なコトノハでしょう」
「すみません」
「私は、私は一度でも貴方に抱き締められたなら、それをよすがに他の男の妻として残る生を送ることも出来るのに」
「それは出来ません。何より貴方に対して不誠実だ。申し訳ない」
「愚直ですね」
けれど桜はその愚直も含めて秀一郎を愛しているのだと、自覚があった。
釣忍が鳴いた。
「桜さん。ご自身の為に生きてください。その為であれば僕も音ノ瀬も、助力を惜しみません」
桜が本当に欲するのはそんな言葉ではない。解っていながらそうとしか告げない秀一郎をほんの少し憎いと思う。
蕾が綻び。
花が咲いて。
やがて散るように。
自分も咲いて、緑の地面の上を散り敷きたい。
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作中のコトノハが、湯水のように皆さまを温められたら幸いです。




