父親
隼太もまた当然のように菅谷崩壊の序曲を聴いていた。だが彼にとっては些末事であり、心底どうでも良いことだった。忠告は聴く耳を持つ者だけに与えるものだし、そうであったとしてもそんな親切心を隼太は持ち合わせていなかった。
「隼太―。スパゲッティー何グラム食べる?」
「百三十」
「おっけ」
再び台所に姿を消した己の父の姿を思う。昴や桜、麒麟は気づいているのだろうか? 自らの拠点が危ういということに。麒麟あたりは勘が良さそうだから気づいているかもしれない。ことに助力を乞うていたら面倒だなと思う。隼太としては、菅谷は徹底的に、完膚残さず叩きのめされたほうが胸が空く。菅谷祐善は自己欺瞞の肥大したいけ好かない人物だった。
父親を救おうと動いているのだとしたら。
祐善にそんな価値があるかどうかはともかくとして、子は父を恋うものだ。
「ねえ、たらこソース切らしちゃってた。カルボナーラソースで良い?」
再びひょっこり大海が顔を出す。
「どっちでも良い。さっさと作れ」
「お言葉ですがね、隼太君。昔から君はたらこスパゲッティが大好きで、小学生の頃、僕が食べてた分にまで手を出そうとしたじゃありませんか」
これだから身内は厄介だ。幼少期の恥まで持ち出してくる。
「ああ、そうだったな。大海」
「ん?」
「お前、菅谷祐善は好きか?」
「どうかな? 磨理が好きなら考えるけど。どうでも良いや。あの家はもう終わりでしょ」
隼太は背筋が冷たくなった。大海には菅谷に関する知識、情報を流してはいない。それなのに彼の語る言葉は正鵠を射ている。狂った父親は、隼太にさえ得体が知れないと思わせた。
にこ、と大海が笑う。
「テーブルの上、セッティングしておくれよ。もうすぐ麺が茹で上がるから」
「ああ」
祐善と大海の狂気は異なる。
けれど二人共、子を持つ父親だ。父親が狂った時、子は当惑し、嘆き、そして。そこからは子供次第だと隼太は考えている。ほかほかと湯気の上がるカルボナーラは食欲をそそり、とても美味しそうだった。
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