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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第二章
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「よろしかったのですか、引き受けて」


 麒麟が帰り、楓が眠り、私と聖は二人して縁側でちびちびと飲んでいた。夜の虫が鳴き始めた。夏ももうすぐ終わりだな。尤も、終わる終わると見せかけていつまでも暑く粘るのが毎年のことだが。

「捨て置く訳にも参りますまい。麒麟さんとは縁が出来てしまった。矜持の高い彼からの救援要請です」

「……菅谷祐善はそこまで危機的な状態なのでしょうか」

「人格的にはそうなのでしょうね。問題はそれが実務にまで支障をきたしているということ。生まれ、成長し、爛熟し、滅びるのは一つの定型化された営みとは言え、滅びの時にあたった者は気の毒です」

 聖の赤い瞳が物言いたげに私の顔を見る。

 解っている。彼が何を危惧しているのか。

「こと様は情が深い。祐善たちに深入りし過ぎるのは危険ですよ。滅びるのも自然の摂理ではあるのです」


 ()が一匹飛んできて、縁側のあたりをうろうろし始めた。月桃香も気にしないと見える。私は右手の人差し指を立てた。蛾はふらふらと吸い寄せられるように、私の人差し指に留まった。これは毒がない蛾なので心配はない。茶色い蛾はふわふわ、(はね)を動かしていたが、その内私の膝の上に落下した。

 事切れている。最期の力を振り絞ってここまで来たのか。

 私は蛾の遺体をくしゃりと握り潰し、庭にその残骸を放った。これで良い養分になる。黙って一部始終を見ていた聖に言う。

「菅谷もこの蛾と同じなのですよ。助けが間に合わなかった時は、音ノ瀬の糧となっていただきます。それは麒麟さんも承知の上でしょう」


 その時の私は個より音ノ瀬当主としての意識が強かった。聖は私の情が深いと言うが、実際の私の当主としての冷徹は隼太にも劣らない。ただ、桜の恋心が憐れだった。恐らく生まれて初めての恋の相手であろうものが、敵陣営にいる皮肉。風の音が運んできた彼女のコトノハが蘇る。

 熱に潤んだようなコトノハだった。

 儚く咲く桜のようなコトノハだった……。

 彼女を蛾のように握り潰せる自信は流石の私にもない。



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いつもありがとうございます。

春風のような温かなコトノハが、皆さまに吹きますように。

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― 新着の感想 ―
[一言] いえいえ。あなたの本質は隼太には遥かに及ばないほど甘いですよ。ことさん。
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