万華鏡に潜めていた
私に隠し事をするとして、聖も秀一郎も容易に白状する男たちではない。
迷った末、私がかけた携帯に相手が出た。
『はい。俊介君?』
「私です、聖さん。音ノ瀬隼太の動向を掴んでいましたか」
前置きも無く、初めからほぼ断定口調だ。それに対して。
『明瞭になったのは昨晩です』
即答が返る。私に嘘は通用しない。それ以上に聖には、隠し立てするつもりも無いようだ。
俊介の携帯で私が電話することも、驚かず受け容れている。
「では貴方が?」
『いえ。椿の生け垣の前で一戦交えたのは秀一郎君です、御当主。大きな負傷は無いようですのでご安心を。音ノ瀬隼太は逃げおおせました。ゆえに現在の居所は不明』
淡々と事務的に報告が成される。
音ノ瀬隼太が、我が家からそう距離の無い場所に立っていたという事実に私は驚愕した。
けれどああ、彼であれば椿を戯れに咲かせ、そして裂かせもするだろう。家主の物書きにすまない。
愛するものを無残にさせた。
土に散りばめられた骸の欠片。
音ノ瀬の業が生む悲しみがまた一つ。
「……報告が遅れた理由を伺いましょう」
隠蔽の理由を。
「現状、僕にはその必要性を感じませんでしたので。護衛は足りていますし。しかし楓さんたちと別行動とは、好ましくありませんね。まあ俊介君がいるから、大丈夫か」
耳に響いた肉声に俯けていた顔を上げると、携帯を持った聖がいた。
炎天下の幻のように涼しげな顔で。
この男の涼しげでない表情を、私の他は誰も知るまい。
聖はそのまま歩み寄り、自分より低い私の頭を撫でる。
「ようし、ようし、大丈夫ですよ。何も怖いことは無いですからね」
私は呆気に取られ、我に返ると手を振り払い、聖を睨む。
「――――不遜です。私はもう、子供ではありません」
昔はよく、掛けてもらった言葉だったが。
「僕には迷子のお姫様に見えますけど」
お姫様、ともよく言われたが。昔の話だ。
「柄ではありません」
揶揄を装い、優しいコトノハを掛けるな。
今の私は、守る側でありたいのだ。
赤い瞳は全て見透かすようで、私を落ち着きなくさせる。
血色の禍々しさとは異なる紅玉の赤。
高貴で、独りで。
「御当主。人の見え方とは万華鏡の如くです。僕のこの目に、貴方は御当主に映れば、他の姿に変幻して映りもします。尊崇は等しく変わらずとも」
歌うように軽やかに、聖は謎をかけるが、謎になっていないことはお互いに承知している。他の姿とは幼い子供であり、お姫様であり、そして。
「だから?」
「御当主の望みの為、心砕くべくして僕が在る。楓さんを守りたいとお思いであればその御心に沿いましょう。音ノ瀬隼太の処遇もまた、良きように」
空は真っ青に秋らしく突き抜けていて。
白髪に赤目の少年の宣誓、または誘いは甘美だ。
彼のコトノハに宿るものを私も知っている。
私たちは同じだからだ。
突き抜けた力で独りぼっち。虚空にある。
そこには暖かな陽など無くて、探り当てた指は奇跡に思えた。
流した涙が拭われた。
まだ少女だった頃、私は白い兎と恋に落ちた。




