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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第二章
289/817

アーサー王よりも

 夏風邪は四日で治った。

 もう少し聖に甘えていたかったという、幼い私の心にはそっと蓋をしておく。彼は私の父でも母でもなく、夫なのだから。けれど風邪をひいている間中、聖は私の心を見透かしたように、私を甘やかした。私が時折、当主なのだからと遠慮しても、病人は皆平等ですと言った。彼の言動は確かに私の心身を癒した。そしてその間、秀一郎の兄である藤一郎と晃一郎から宝珠の献上があった。時は進んでいる。私もいつまでも半病人と甘えていられない。しかし、聖はくれぐれも無理をするなと口を酸っぱくして言った。

 私は今、浴衣に薄い白銀のショールを羽織り、縁側に座っている。夕暮れ時である。月桃香を焚き、団扇を扇いでいると、時折、桜や昴、麒麟のコトノハが漏れ聞こえてきた。それは少し切ないことだった。彼らのコトノハはまるで親なし子のそれだ。特に昴は、見切りをつけた麒麟と違い、父である祐善の情を未だに求めている。本人にも叶わないと判っていることだろう。それでも求めずにいられない。遣る瀬無いことである。私は立ち上がり、ショールを座卓に置いて、台所に立った。今日の夕食はとろろ月見蕎麦の予定だ。手抜きと言うなかれ。これが弱った身体に精がつく、時節にも合った献立なのだ。聖がひょっこり顔を出す。心配そうな色の漂う面持ちに、私は微苦笑する。

「大丈夫ですよ、聖さん」

「僕が作っても良いのに」

 おや、いじけている。珍しい。

「じゃあ、山芋を摺り下ろしてください」

「はい」

 その内、楓も帰ってきて、夕飯の支度を手伝う。もーちゃんはよく解らない歌を歌いながら台所をにこにこ(多分)見ている。


 うちが嘗て菅谷に等しかった頃があった。


 あの頃のうすら寒さを今でも憶えている。ふるさとに行けば聖がいるから耐えられた。もしふるさとがなかったら、聖がいなかったらと思うと背筋が冷たくなる。それと同じに、もし楓と出逢っていなかったら。出来上がった夕食を、皆でいただきますと言って食べる。この円環は奇跡なのだ。座卓は長方形だが、アーサー王の円卓に着いた騎士たちさながらに、私たちは尊い絆で結ばれている。



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いつもありがとうございます。

今年も残すところあと一日。皆さまが佳きコトノハを得られますよう。

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