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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第二章
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ローズカットにリクエスト

 バニラアイスを食べながら、私は秀一郎と恭司より報告を受けた。やや行儀悪い。こうしている内にも秋の気配が忍び寄り、やがては冬を連れてくる。真っ青な空模様も刻々、変化する。アイスは夏の風物詩ゆえに愛でて然るべきなのだ。と、言い訳を己の内でしてみる。

 そして座卓の上に鎮座する市松人形を眺める。市松人形と言えばどこかおどろおどろしい雰囲気のものが多いが、この子はつぶらな瞳が可愛い。菊花を散らした文様の着物からも格の高さが窺える。

「お手柄でしたね、恭司さん」

 褒めると、恭司はほっとした表情になる。私が楓の件でだいぶきつく言ったのが堪えていたのだろう。少し効き過ぎの薬だったかもしれないが、彼はちゃんとこうして成果を上げた。これで何歩か楓に近づいたな。

「秀一郎が来なければ、どうなっていたか解らない。あちらは桜という女も遅れて来たし」

「僕が来るまで持ち堪えた。そのことが肝要なのだよ、恭司君」

「俺にはあの桜って女がよく解らない。一応、攻撃すれば応じるが、敵意が感じられない。暖簾に腕押しのようでやりにくい」

 ふむ。戦局の中、冷静な観察眼も持てるようになっているな。よしよし。

 菅谷桜……。一度見た女性を心に思い浮かべる。確かに、戦線に自ら立つようなタイプには見えない。この違和感は以前にも覚えたものだ。

「気の毒な女性ですね」

「そう見えますか、秀一郎さん」

「はい。彼女は昴を莫迦な兄さん、と言っていました。同じく自らを莫迦な私、と。刷り込みでしょうね。彼女は菅谷と父の呪いから抜け出せないでいるのですよ。ですがそれが僕たちの狙い目でもあります」

「――――心の間隙を突くのですか」

 秀一郎が少し困った顔を見せる。

「ことさんには抵抗のあるやり方でしょうが。後で聖君にも意見を聴きます」

 今、聖はふるさとの寺に帰ってうちにはいない。

 麻のシャツブラウスの、一番上のボタンを外す。別に男共へのサービスではなく、単純に暑いからだ。熱を外へ逃す。……昴は難しいだろう。では桜なら? 彼女であれば、音ノ瀬の庇護下に置くことが可能ではないか? 私も聖に話してみよう。正反対の意見を求められて聖は困るかもしれないが。諦めたくないのだ。諦めたら、後で自分を許せなくなりそうで、それが怖い。左手首のブレスレットを見ると、ローズカットのダイヤモンドが鈍く光った。



挿絵(By みてみん)




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