ローズカットにリクエスト
バニラアイスを食べながら、私は秀一郎と恭司より報告を受けた。やや行儀悪い。こうしている内にも秋の気配が忍び寄り、やがては冬を連れてくる。真っ青な空模様も刻々、変化する。アイスは夏の風物詩ゆえに愛でて然るべきなのだ。と、言い訳を己の内でしてみる。
そして座卓の上に鎮座する市松人形を眺める。市松人形と言えばどこかおどろおどろしい雰囲気のものが多いが、この子はつぶらな瞳が可愛い。菊花を散らした文様の着物からも格の高さが窺える。
「お手柄でしたね、恭司さん」
褒めると、恭司はほっとした表情になる。私が楓の件でだいぶきつく言ったのが堪えていたのだろう。少し効き過ぎの薬だったかもしれないが、彼はちゃんとこうして成果を上げた。これで何歩か楓に近づいたな。
「秀一郎が来なければ、どうなっていたか解らない。あちらは桜という女も遅れて来たし」
「僕が来るまで持ち堪えた。そのことが肝要なのだよ、恭司君」
「俺にはあの桜って女がよく解らない。一応、攻撃すれば応じるが、敵意が感じられない。暖簾に腕押しのようでやりにくい」
ふむ。戦局の中、冷静な観察眼も持てるようになっているな。よしよし。
菅谷桜……。一度見た女性を心に思い浮かべる。確かに、戦線に自ら立つようなタイプには見えない。この違和感は以前にも覚えたものだ。
「気の毒な女性ですね」
「そう見えますか、秀一郎さん」
「はい。彼女は昴を莫迦な兄さん、と言っていました。同じく自らを莫迦な私、と。刷り込みでしょうね。彼女は菅谷と父の呪いから抜け出せないでいるのですよ。ですがそれが僕たちの狙い目でもあります」
「――――心の間隙を突くのですか」
秀一郎が少し困った顔を見せる。
「ことさんには抵抗のあるやり方でしょうが。後で聖君にも意見を聴きます」
今、聖はふるさとの寺に帰ってうちにはいない。
麻のシャツブラウスの、一番上のボタンを外す。別に男共へのサービスではなく、単純に暑いからだ。熱を外へ逃す。……昴は難しいだろう。では桜なら? 彼女であれば、音ノ瀬の庇護下に置くことが可能ではないか? 私も聖に話してみよう。正反対の意見を求められて聖は困るかもしれないが。諦めたくないのだ。諦めたら、後で自分を許せなくなりそうで、それが怖い。左手首のブレスレットを見ると、ローズカットのダイヤモンドが鈍く光った。
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