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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第一章
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鬼兎の泣き所

「ははあ、やり合いましたか」


 私は縁側に座り、目を閉じて風の報せを聴いていた。麒麟と昴がぶつかったらしい。正確には昴による急襲だ。麒麟の実力と桜の仲介でその場は収まったが、肉親同士での戦闘は、麒麟の未だ万全ではない心を削いだのではあるまいか。

 釣忍が鳴って、私は目を開けた。今日はちょっとだらけて、夜着である桔梗柄の浴衣のまま、過ごしている。たまには自堕落も良いだろう。腕時計も、ブレスレットも着けているが、ここは我が家。作法に煩い家人もいない。さて話は麒麟だ。恩を返すと言っていたが、彼をこのまま音ノ瀬の陣地に置いて良いものか。紺碧の空が人の心をも問うかのような清爽(せいそう)さだ。あの若者を、菅谷に戻すのも気が退ける。最善は、宝珠の争いに関与させず一人、市井で暮らすことだろう。

 だが、折り鶴が届いた。梅、桃、桜に金の散った千代紙で折られている。

 そこには男子の一言金鉄の如し、とだけ書かれてあった。苦笑する。麒麟は私の懸念を先回りして読み、心配無用と告げているのだ。希代の陰陽師候補と称されるだけのことはある。私は団扇をゆるりと動かし風を起こした。間もなく、自然の涼風が吹いてきたが、これは風の好意だ。

「ありがとう。でも今は、麒麟に吹いてやってくれないか」

 風は私のコトノハに了承の意を示し、頬をひと撫でしてから去った。蝉がわんわんと鳴いている。もう少し経てば夜にすだく虫が人の心に取って代わるのだろう。季節の移ろいは規則的で、最近ややルーズになっているがまだ律儀を保っている。

 隼太も油断ならない。危険性で言えば昴より上だ。ひょっとすると祐善よりも。恭司は今、隼太のマンションを出て千秋の家に居候している。彼なりの決意が窺い知れる行動が、私を微笑ましくさせた。痛みもあろう、葛藤もあろう、だが楓を得たいと願うのであればそのくらいは耐えてもらわねば。私の冷徹は親のそれに似ているのかもしれない。なまなかな男に娘はやれぬ。それに彼は過去に手を血で染めた。流血の報いは大きい。秀一郎が良いように導いてくれれば良いが。私はその点では秀一郎を信頼していた。あれは頼れる男だ。……もし、もしも聖がいなければ、私は秀一郎を選んでいたのかもしれない。しかしそれは不毛な例えで、機械音痴の愛しいウサギは存在してしまった。

 そこで私の携帯が鳴った。今風に言うならスマートフォンだ。

「はい、もしもし。聖さん? 携帯電話を忘れた? またですか。……はい、隣街のスーパーで魚が特売だから足を伸ばすので遅くなると。解りました」

 どうやら近所の公衆電話を探し当ててかけているらしい。前回の二の(てつ)は踏むまいと、現状を伝えようとした努力は買う。ふるさとでは物々交換で生きて来た人だものなあ。しかし冷蔵庫の開けっ放しの警告音を、楽の音の一種と愛でるのは止めてくれ。



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寒くなってまいりました。

作中のコトノハが温もりの花となれば幸いです。

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