値千金
おう。小鬼がうちの生垣の隙間に挟まり出られなくなり、じたばたしている。鮮やかな黄色い肌の一本角の子だ。気の毒に思った私は、生垣の底辺を少し持ち上げ、小鬼が這い出る隙間を作ってやった。身をよじって出た小鬼は、礼を言う代わりにか、私の掌にぽとりとビー玉を落とし、タタター、と去って行った。水色のビー玉を透かし見て、私は驚いた。
「……宝珠やん」
全く人(?)助けはするものである。暑い中、打ち水をしていた時の出来事だった。聖が熱中症にならないよう、ここのところ口喧しい。余り心配させてもいけないので、蝉の合唱をバックミュージックに家の中に入った。待ち構えていたように聖がスポーツドリンクを注いだコップを持って来る。私は微苦笑してそれを受け取った。聖の言ではないが、思ったより消耗して水分を欲していたらしい。スポーツドリンクは慈雨のように私の中へと注がれた。宝珠を小鬼から貰ったくだりを話すと、こと様らしいと笑う。そんなものか。何が私らしくて何がそうでないのか自分では解らない。とりあえずビー玉はいつもの部屋へと納める。座卓に着き紫色の扇風機をつける。生温い風が攪拌されてこちらに届く。
「晃一郎と藤一郎から報せは」
「単独行動を避けるのは難しいが、それぞれ宝珠を幾つか早くも回収したとのこと」
「上々」
「玲一さんも動いているようですよ」
一族の実力者が総出で宝珠探索に乗り出している。有難いことだ。手首の金色のブレスレットを弄りながら思う。それを聖がにこやかに見ている。
「どうしました?」
「いえ、それは護符の力も持っていまして、今は星と月のデザインですが、ことある時には花が咲くとの言い伝えがあるのですよ」
「それは、美しいでしょうね。聖さん」
「はい」
「私は、宝珠の価値を人命より重くは見ておりません」
「はい」
「万一、菅谷や隼太さんがどちらかを選べと言ってきた時には、宝珠は手放す積りです」
「承知しております。こと様がそういう方だということは。そういう方だからこそ、皮肉にも人心や宝珠を惹きつけるのだということも」
「聖さんは私を高く見積もり過ぎですよ。忘れましたか。そもそもは私の過ちから今回のような騒動に発展しているのです」
「こと様こそお忘れですか。こと様の行為から命を拾った人間がここにいることを。禁忌を破ってまで、ここに存在して幸せを噛み締めていることを。貴方に咎があるというなら、それは畢竟、僕に起因するものなのです」
蝉しぐれよ、もう少し加減しておくれ。
この値千金のコトノハを、私はよく味わい、幸福に浸りたいのだ。
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