美しい青
秀一郎から喫茶店における一部始終を聴いた私は嘆息した。
「まさかあの店まで来るなんて」
「力に物を言わせない相手で助かりました。彼はことさんの弱味を知りたかったようですよ」
手酌でビールを飲みながら、秀一郎が語る。聖は冷静な面持ちで、楓は緊張した表情だ。それにしても今日の暮れ方の美しさよ。溶かしたサファイアを混ぜ込んだような青が束の間、顔を見せた。この数秒が得難いのだ。月桃香を新しく替え、私は再び食卓に戻る。今日は鶏の手羽元をこんがり焼いて塩胡椒をかけたものと、ポテトサラダに冷奴だ。手間のかかるポテトサラダは聖が作ってくれた。感謝。
「私の弱味なんて解り切っているでしょうに」
楓の頭を撫でながら微笑み、私は言う。
「恐らく菅谷昴は、聖君や楓さんだけでなく、もっと過去……ことさんのご両親についても知りたかったのではと」
「……そこまではマスターも知り得ないことですよ」
くいっと秀一郎がビールを呷る。
「でしょうね。まあ、棚ぼたくらいの心積もりだったんでしょう」
私は両親と決して円滑な関係ではなかった。
父は私に厳しく接し、音ノ瀬の当主に相応しくあることを、娘である以前に要求した。母はそれを窘めるでもなく、私のコトノハを処方する才に嫉妬していた。
もちろん、それらが全てではなく、私は両親に愛されていたと思う。こくこく、と私もビールを飲む。ビアグラスは中国の窯で焼かれた青が美しいものだ。今日は美しい青に縁がある。手羽元とサラダでこってりしたところを、茗荷や葱の薬味をかけた冷奴でさっぱりさせる。
「どうしますか。今後の方針は」
「難しいですね。こちらから打って出るのも何ですし、まあ目下、専守防衛、掛かる火の粉を払うといったところでしょうか。但し、恭司さんには楓さんを守っていただきましょう。私たちは宝珠捜しに注力しつつ、隼太さんや菅谷と遭えば応戦するというところで」
「攻撃は最大の防御とも言えますよ」
「聖さんも桜さんを見たでしょう。むやみやたらに攻撃出来ますか」
「……」
「僕はまだ逢ったことがないな。どういう女性ですか」
「嫋やかで心優しい風情の人です。戦場には最も向かなさそうな。けれど陰陽の才はあるので、祐善に便利に使われているのでしょうね」
「気の毒な話だ」
「ともかく楓さんには恭司さんともーちゃんを。我々も単独行動はなるべく避けましょう。秀一郎さん、藤一郎さんたちと行動を共にすることは出来ますか」
秀一郎が苦笑いする。
「どちらも仕事がありますからね。公務員とカウンセラーでは中々。一応、兄さんたちには伝えておきましょう」
「お願いします。たかが宝珠と侮るなかれ、です」
私はこの時、まだ知らなかった。先に起こる未来の悲嘆を。
だから、酔眼で呑気に構えていられたのだ。
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作中のコトノハが、寒い世をしのぐ一助となれば幸いです。
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