表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第一章
267/817

悪魔のように黒く天使のように優しく

 その喫茶店はごく普通の、少し静かな店に思われがちだ。

 だがよく注意すれば、店内の隅々にまでマスターの静謐な美学が行き届いていることが解るだろう。

 カウンター席で薫を飲む彼は、少なくともこの店を高く評価した。

「悪魔のように黒く 地獄のように熱く 天使のように優しく 恋のように甘く これが珈琲である」

 彼の(そら)んじた言葉を聴いたマスターは微笑を浮かべた。

「タレーランですね」

 有名なフランスの政治家・タレーラン=ペリゴールの台詞である。

 昴はにこりと笑った。

「流石、博識だ」

「いえいえ」

「博識ついでに尋ねたい」

「何でしょう」

「音ノ瀬ことの内部事情――――。貴方ならご存じかと思って」

「……お客様に関しましては、守秘義務がございますので」

「そこを押して。礼は弾むよ。貴方の答え次第で、このコーヒー一杯が札束に変わる」

「そういう問題では」

「困ったなあ」

 全く困っていない笑顔で昴は(うそぶ)く。口から覗く八重歯が剣呑だ。

「そのへんにしておきたまえ」

 完全に不意を突かれた昴は振り返り、テーブル席に座す秀一郎を見た。気配はなかった。自分がこの店に入った時、見回した店内にはマスター以外無人だった筈だ。その昴の困惑を見透かすように秀一郎が説明した。

「君が入店するのを察知すると同時に〝同化(どうか)〟のコトノハを処方した。かくして僕は店と同化し、君には認知されない存在となったのだよ。菅谷昴君」

「伊達に狗じゃないと音ノ瀬隼太が言っていた」

「そう。伊達に狗じゃない」

「成程な。まあ良い。音ノ瀬ことのアキレス腱なら知れている。楓とかいうあの秘蔵っ子」

「否定はしないけれどね。彼女に手出しするのはお勧めしないな」

「どうして?」

 秀一郎は嫣然と笑った。この男はこんな笑い方も出来るのかと昴は意外に感じた。

「雛を守る親鳥の必死を知っているだろう? 楓さんに手を出すと言うのはね、ことさんを本気で怒らせるということだ。この、僕でさえ、そんな恐ろしい真似はしない」

「……俺の親父とは違う人種だな」

「君の、君たちの境遇に同情しない訳でもない。けれどそれはまた別問題だ。同情で手を抜かれ、喜ぶ程、君の矜持は低くないだろう」

「うん。そうだな。あんたは賢明だ。この店でやり合うのは嫌だから、後日、仕切り直しをしよう」

「どうしてもやるのかい」

「そう。だってコーヒーは、悪魔のように黒いだろう?」

 理屈になっているような、なっていないような言葉を最後に、昴は代金を置いて店から出て行った。



ブクマ、評価、ご感想など頂けると励みになります。

励みとなっております。

作中のコトノハが皆さまにより良く作用すれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ