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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第一章
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そして交錯するコトノハたち

 その日、私は聖と共にふるさとの寺を訪れていた。私の持つ宝飾品に宝珠があった前例を鑑みて、寺宝にも宝珠がないかと考えたのだ。果たして蔵的な意味合いを持つ部屋から、三つの宝珠が発見された。一つは蓮を象った金色の造花で、残り二つは拳大の水晶だった。水晶などは如何にも宝珠らしい。蝉の声が木霊する中、その部屋は不思議と涼しくてひんやりしていた。今日は昨今にしては珍しく薄曇りで、空気に儚い湿気が感じられる。一雨来るのかもしれない。聖と寺内部の掃除を軽く済ませてから帰ることにした。聖は私の手を煩わせることを嫌がったが、私は強行した。拭き掃除ももう少しで終わろうとするところ、聖がつく鐘の音が聴こえた。魔を払う聖なる音。清きは引き寄せ悪しきは遠ざける。私は昔から聖の鳴らす鐘の音が好きだった。

 聖が昔から使っている部屋は彼が掃除し、私は真葛や彼らの両親の部屋を掃除した。副つ家を本家当主が掃除したなどと知れては騒動になる為、これらの行為はごく隠密に行われた。昼を台所にあった素麺で簡単に済ませ、帰路に就くべく玄関に出た時。


 そこには隼太が立っていた。


 隼太はいつもの紫陽花色のコートを着て、静かに佇んでいたが、私には彼の内で膨張せんとするコトノハの気配が見て取れた。互いに挨拶はなかった。

(しょう)

(へき)

(れつ)

(へき)混迷(こんめい)

 隼太のコトノハに聖が対応しつつ彼に迫り掌底を繰り出す。隼太はこれをひらりと避け、お返しとばかりに長い脚で聖に蹴りを見舞おうとした。聖は左腕で隼太の脚をガードしたが、相当に強烈な蹴りだったらしく、二、三歩、たたらを踏みガードした左腕を軽く振った。

「骨が折れてもおかしくないところだが、流石は鬼兎だな」

「この寺は僕のものだ。寺宝にまで手を出そうとするのは強欲じゃないのかい」

「元よりこれは奪い合いだ」

 私はこうした争いが嫌いだった。情け容赦ない。人が本来持つ優しさや穏やかさが消え去ってしまう。隼太でさえ和む時間はあるのだ。しかし今の隼太はまさしく狩人だった。聖と来て正解だった。いつでも後衛に回れる。何度かの攻防の末、隼太が大事な紫陽花色のコートの(ほこり)を払いながら口を開いた。出て来たのは攻撃のコトノハではなかった。

「なぜ、この世に宝珠という存在があるのか、不思議には思わないか」

 私にも向けて発せられた問いらしい。

「人は過ちを犯す。犯した場合の(あがな)いの防波堤として生まれたのが宝珠だ。そうした意味において、音ノ瀬ことが宝珠を持つのは至極当然とは言える。だがこちらもビジネスでね。譲ってやる訳には行かないんだよ」

 上段からの蹴りが聖を襲う。聖はこれをかわし、自らも回し蹴りを放った。これは紫陽花色を掠め、隼太の面持ちがやや険しくなった。蝉。まだ鳴いている。

 隼太は聖を乱暴に突き飛ばすと、私に迫り、持っていた宝珠の一つを奪い去った。止める隙もなかった。

「今はこれだけにしておいてやる」

「待て――――」

 聖の制止は虚しく宙に溶けた。隼太は忽然と姿を消した。コトノハだろうか、それとも陰陽の術の助けを借りているのだろうか。私は聖に駆け寄った。

「大丈夫ですか、聖さん」

「はい。僕は無事ですが面目ありません。宝珠を奪われてしまいましたね」

「一つくらいくれてやりましょう。今、私たちがこうして健やかにあることこそが肝心なんです」

 私が語気を強めて言うと、聖が形容し難い微笑を浮かべた。



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作中のコトノハが、円滑な生の営みの一助になれば幸いです。

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