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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
宝珠争奪編 第一章
262/817

あなたのおうちはどこですか

 うーん。少し買い過ぎた気がする。買い物でかさばるじゃが芋や玉葱、牛乳パックなどがずしりと重い。おまけに今日はトマトホール缶が安かったから、つい欲張ってしまった。蝉は鳴いてるし暑いし、これはあれだ。夏だな。うん。ちょっと落ち着こう。聖が、自分が行くかついて行くかしようと申し出たのを、子供じゃないのだからと笑っていなした数十分前の私が憎い。それにしても青い。青い空だなあ……。余りに晴天だと逆に悲しみを覚えるのは日本人の性だろうか、私の性分ゆえだろうか。前の戦争が、悲しい戦争が、夏に終わったから、その記憶が大地や草木(そうもく)に沁みついているのだろうか。

 驚いたことに、私の持つ宝飾品の中からも宝珠が見つかった。私が持つと言っても、私が自ら購入したものより、祖母や母から貰い受けたものが多い。



挿絵(By みてみん)




 聖が、結納品だと言って差し出した金の腕輪は違ったが、星と月の形にローズカットされたダイヤがあしらわれたアンティークは違う意味で尊く大事なもので、私は着物の時以外は着けるようにしている。


挿絵(By みてみん)



案外、間近に〝宝珠らしく〟あるものだと言うと、聖は私に惹かれた可能性もあると告げた。そんなものだろうか。

 ああ。ここから先の坂を上るのか。げんなりする。近くの電柱に留まっていた蝉がピタリと鳴き止み、バタタ、と音を立てて飛び去った。首を巡らせると、長髪を大海のように後ろで結んだ青年が立っていた。

「重そうだね。持ってやるよ」

「ありがとうございます。助かります」

 躊躇せず、私は青年の言葉に甘えることにした。黒いだぼっとしたTシャツに、軍パンを合わせた彼は髪型を除けば如何にも今時の青年で、そして、如才なく話しをしては私を退屈させなかった。相手を警戒させない話術に長けている。私は彼の話に何度も笑い、そんな私を見て彼もまた笑った。彼が笑うと口の中から八重歯が覗き、快活な印象をより強くする。そうこうする内にうちが近づいてきた。私は彼からエコバッグを引き取った。

「本当に助かりました」

「いえいえ。貴方、甘えるの下手そうだけど、楽に生きるには直したが良いよ、その癖」

 言われてしまう。私より若いのに慧眼(けいがん)だなあ。あ、うちの玄関横に蝉が留まっている。どこにでも留まるのかい君たちは。ここで鳴かれると大層、煩いのだけれど。仕方ない。人に泣く自由があるように、彼らにも鳴く自由がある。子孫を残すという題目もあるし。


「よろしかったら上がってお茶でも飲んで行かれませんか」

「いえ、それは」

「もっとお話ししたいところですし」


 彼は奇妙な表情になった。屈託のなさが鳴りを潜め薄い紗が面を覆うような。

 私はにこやかな表情を崩さず語り掛けた。


「どうぞ、菅谷昴さん」



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作中のコトノハの、いずれかがお心の琴線に触れましたら幸いです。

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