タスク
少し身動きすれば傷が痛む。床に伏しているしかない。
いつもより蝉の鳴き声や鳥の声、風の音が大きく響く。聖は秀一郎と麒麟と共に宝珠のあるらしき場所に出向いている。今日は休日なので、楓が真葛の手が塞がっている時も、いや、そうでない時もだが、私の傍にちょこんと座っている。この子は聡い子なので、無闇に騒ぎ立てても益がないことを知っている。
只、私の具合を気にかけ、薬を飲む必要性の有無を計ったり、咽喉は渇いていないかと尋ねたりする。それから、最近覚えたコトノハの処方を話したり。
要は手持無沙汰の私の相手をしてくれているのだ。真葛は微笑ましい顔で、時折こちらの様子を眺めている。彼女も早く家に帰さなければならない。もう、既に音ノ瀬から抜けた身なのだ。まだ幼い息子も寂しがっているだろう。小学高学年とは言え子供は子供だ。
聖を秀一郎たちと行かせるのには苦労した。私の傍についていたいと頑として言い張った。結局、私が説得して彼が折れた。過保護なのだ。昔から。
額の汗を楓がタオルで拭ってくれる。
「楓さん」
「何?」
「水を持って来てもらえませんか」
「解った」
まだ熱があり、咽喉が気づけばカラカラになっているのだ。風が緩く吹き、私を慰撫する。ありがとう、大丈夫だよ。釣忍の音色も心なし控えめだ。
楓が水と、さっぱりするからと言ってグレープフルーツジュースを持って来てくれた。水を先に飲んで、グレープフルーツを飲む。どちらも身に沁みて慈雨のようだ。今回のことで、私は改めて楓を音ノ瀬次期当主として良いものかどうか悩むようになった。楓に、この子に一生残るような傷を残すような立場に置きたくない。
「私は構わないの、ことさん」
楓が私の思考を読んだようなタイミングで言ったので驚いた。
「私を後継にすべきかどうかで悩んでいるんでしょう。ことさんは、自分が傷つくのは省みないのに、人が傷つくのは辛い人だから。私は後継になってもならなくても構わない。ことさんの裁量で決めて。でもなるべくなら、ことさんにとって良い方向で」
私は手を伸ばして楓の髪を撫でた。
……こうして人は大人になっていく。
「恭司さんが好きでしょう?」
微笑と共に尋ねると、楓は少し頬を染めて頷いた。
「私は楓さんと恭司さんを添わせてやりたい。楓さんが音ノ瀬を継ぐに最適であればそうしたい。けれどそれらの望みを叶えるには問題もある。楓さん。その問題を、一つ一つ、一緒に解いてゆきましょうね」
「……ことさん、お母さんよりお母さんみたい」
「私は貴方のことが大好きですから」
「知ってる」
楓が私のお腹あたりに、体重を掛けずに頭を置いた。私はその髪の毛を梳いた。何度も何度も梳いて、宝珠の他に私たちの前に横たわる課題に思いを馳せた。
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