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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第四章
249/817

呼べば来てくれるから

 翌日、私は熱を出した。抗生物質など飲んで、布団で大人しくしている。真葛が緩やかだが早い身のこなしで私の世話を焼いてくれる。この所作の優雅さは彼女ならではだ。蝉が今日も大合唱だ。私は桔梗柄の浴衣を着て横になっていた。このだるさと熱さ、痛みは宝珠に手を伸ばす者相応のものなのだろう。今日は平日なので楓は説得して学校に行かせた。目に涙を溜めて、ついていたいと言った彼女の懇願を退けるのは辛かった。

 その内、麒麟が見舞いの品と宝珠が入った桐の箱を持って見舞いに来た。見舞いはカステラだった。

「大丈夫? だいぶきつそうだけど」

「ええ。そちらが宝珠ですか?」

「うん、そう。寺の宝物殿にあったものを貰って来た」

「よくお寺が手放しましたね」

「霊障を少しばかり鎮めたら、その見返りに」

 僧侶でも手を焼く霊障を鎮めたのか。流石、陰陽大家の後継。

「ことちゃん」

「ちゃんづけで呼ぶな」

「こと」

「図々しい」

「全くことちゃんってば照れ屋なんだから~」

 疲れる。麒麟の横に座る真葛と聖も呆れた目をしている。聖は家事などをしながら真葛同様、私を見守ってくれる。麒麟の目が真剣になる。

「龍にやられたんだって? あの手の聖獣は、徹底的に避けるか、下手な情けなく接するかのどちらかしかないよ。ことちゃんは優しいから今回はしくじった。優しいっていうのは一見、良いことに思えて、ほら、今みたいに周りのみんなに心配かけることにもなるんだよ」

 諭されて、私は反省すること頻りだった。桐の箱から出された宝珠はとげとげとした球体で、青白く淡い光を纏っている。真葛がカステラを切って緑茶と共に持って来てくれた。聖たちの分もある。

 甘い。優しい甘さだな。

 この甘さを切り捨てなければ当主に相応しくないのだとしたら、確かに私は不向きなのだろう。大事なものを抱え過ぎている。


 涼やかな風の吹く夜。紫紺のキャンパスに白が、青が、橙が、赤が散る。美しい夏の夜に、私は熱から来る悪夢にうなされていた。真っ黒い闇の中、聖が倒れている。楓が倒れている。秀一郎が、真葛が、俊介が、他の親しい人たちが皆、倒れて事切れているのだ。黒に(おびただ)しい赤が流れている。私は絶望した。絶望しながら、宝珠を使えば甦らせるのではないかと考えた。前後の思考はとっくに失くしていた。禁呪を、再び行おうとした時、右手に温もりを感じて目が覚めた。

「聖さん……」

 聖が端座した状態で私の横にいた。退院してからこちら、真葛と交代で夜についていてくれる。それがこれ程心強いと思ったことはなかった。

「うなされておいででした」

「……悪い夢を見まして」

「それなら僕を呼べば良かった」

「聖さん」

「呼べばよかった……」

 

 聖は傷に障らないように、羽毛のような手つきでそっと私を抱き締めた。



ブクマ、評価、ご感想など頂けると励みになります。

※九藤の感想返信は亀の歩みで有名ですが、その分心を籠めています。

いつもご愛顧感謝しております。

今日はブクマ1件増えて一日幸せでお腹いっぱいでした。

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