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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第四章
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破れたブラウス

「遅かったな」

 隼太は私たちが来ることを予期していたかのように言った。恭司は眉をひそめている。鉄扉は締まっていた。どこか別ルートからここに至ることが出来るのか。隼太のナイフについた血は、龍のもののようだ。(せい)(ぎん)の鱗が傷ついている箇所がある。瞳は龍の怒りを表すように真っ赤に濁っていた。

「まだここが児童公園となる前、術者にとっ捕まって身動き出来ずにいた龍だ。業者は触らぬ神に祟りなしと放置したんだろう。平和主義者のお嬢さんたちは下がっていろ。俺の宝珠収穫の邪魔をするなよ」

 どうやらあの龍の鱗の一枚一枚が宝珠らしい。それは龍が生きるにも欠かせないものの筈。全て奪おうと言うのか、隼太。

(かい)

 コトノハで縛っていたであろう龍を解放する。途端に龍は咆哮し、隼太たちに向かって行った。ちっ、と舌打ちし、迎え撃とうとする隼太の前に聖が滑り込む。上手く龍の突進を小声の処方でいなしてくれた。それから聖は貴人を導くように(うやうや)しく私の手を取り、龍の傍まで導いた。龍の濁った赤がぎょろりと私を睨む。


「申し訳ありませんでした。こちらの身勝手で、貴方に傷を負わせてしまいました。更にその上で図々しいのですが、貴方の鱗を数枚、分けて頂けないでしょうか」


 私は誠心誠意、心を籠めて龍にコトノハを処方した。しかし龍は唸り、右腕を大きく払った。その、鋭い爪が私の胸部を切り裂いた。

「こと様っ!」

「愚かだな」

 聖が私に駆け寄る。支えようとした聖を制して、私は再び龍に、人に住処を追い遣られ、孤独に過ごしていたのであろう龍に歩み寄った。息が荒くなる。信じられないくらいに傷が痛い。だがやらねばならない。

()

 私が龍にコトノハを処方すると、痛々しかった流血がピタリと止まった。ふ、と龍の目に柔和が兆す。龍は戸惑っているようだった。私は龍の頭を抱き締めた。楓にするように。

「貴方の心に、どうか一日でも早く平穏が戻りますよう」

 龍が、小首を傾げる。私は少し距離を取った。数秒、龍は動かず沈黙していた。隼太の腕を恭司が押さえてくれている。彼は隼太の味方だが、ストッパーでもある。次の瞬間、驚くべきことが起こった。龍が身震いし、その拍子に鱗が数枚バラバラと落ちたのだ。目を瞠る私たちをちらりと見ると、彼はのっしのっしとねぐらと思しき方向へ去って行った。暗いので定かではないが、円筒形のこの場所を中心にいくつか枝分かれした道があるらしい。

 どこまでも変わらないのが隼太である。彼はそれまでの経緯にまるで頓着せず、鱗を拾い集め始めた。

「聖さん。私たちも」

「傷の手当が先です」

 聖は無表情だが、怒りと嘆きの気配があった。

()

「ああ、気に入っていたんだけどな。このブラウス」

「こと様」

「解っている。……済まない、聖」

 その言葉を最後に私は聖の腕の中で気を失った。




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あなたに寄り添うコトノハに出逢えますように。

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