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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第四章
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巨峰入りチューハイ

 その夜、居酒屋で麒麟の親睦会のようなものを催した。

 参加者は私、聖、秀一郎、そしてパウロに俊介だ。パウロは隼太にも近しく微妙な立場だが、この飲み会を機に取り込んでしまえという策略だ。俊介もパウロも、私の頬の青あざを見た時はぎょっとした顔をした。これでもだいぶマシになったほうなんだが。次いで俊介が、聖たちに掴みかからんばかりの勢いで、貴方たちがついていながらと責め立てたもので、私は慌てて彼を宥めた。本日夕刻、客間での出来事である。仔細をパウロと俊介に話すと、俊介は次に憤懣(ふんまん)()る方ないと言った視線を麒麟に向けた。

「女に手を挙げるなんて最低だ」

「うん。俺もそう思う」

 麒麟が殊勝にそう言ったので、俊介はそれ以上は言えなくなったらしく沈黙した。桃色が鮮やかで綺麗な夕方だった。まだ鳴く蝉の声を聴きながら、私たちは居酒屋へと向かった。


 そして親睦会は次第に宴会へと流れていった。


「へい、白ミソとサガリお待ちっ」

「大将、芋焼酎の水割りをもう一杯」

「あいよ!」

「こと様、余り飲まれますと傷に障るのでは」

「大丈夫ですよ、このくらい」

「へえ、パウロは数か国語も話せるんだね」

「はい、コトさんたちの役に立てるのが嬉しいです」

 パウロの飾らない素朴な気立ては麒麟と波長が合ったらしい。俊介は飲み食いしつつ、麒麟に対するわだかまりも融けつつあるようだ。お酒を飲んでにこにこするのは悪いことではない。聖と秀一郎は、座卓に地図を広げ、何やら話し込んでいる。

「ここから」

 聖が街の東北を指し、南下する。

「このあたり一帯に宝珠の気配が強い。もちろん、ふるさとにもまだある」

「解った。明日、仕事終わりに東北の児童公園を見てみよう。ああしたところには不可思議が集まりやすい」

「頼む」

「大将、巨峰のチューハイ、本物の巨峰入りで」

 私が男たちの話合いそっちのけで言うと、赤ら顔の店主が、がははと笑った。

「相変わらず、無茶言うねえ、御当主は!」

「は?」

 麒麟が店主の言葉を聴き咎めた。私は解説する。

「こちら、店主の(おと)ノ(の)()(おに)太郎(たろう)さん。うちの一族の方です」

「いやあ、どうも。あんちゃん、ひょろっこいね。豚バラ喰いねえ。もつ鍋もあるぞ」

「はあ」

 麒麟は毒気を抜かれた様子でばしばし、鬼太郎に背中を叩かれている。あれ、結構痛いぞ。

「そうですよ、麒麟君。さあ、えのきのベーコン巻きも食べて食べて」

「……あんた幾つ?」

「三十二だけど君は?」

「……二十二」

「なら麒麟君で良いね」

 にこっと俊介が笑う。これが彼本来の持ち味だった。

 私はこの親睦会が緩やかに皆を輪と結ぶ兆しにほっとしていた。




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