巨峰入りチューハイ
その夜、居酒屋で麒麟の親睦会のようなものを催した。
参加者は私、聖、秀一郎、そしてパウロに俊介だ。パウロは隼太にも近しく微妙な立場だが、この飲み会を機に取り込んでしまえという策略だ。俊介もパウロも、私の頬の青あざを見た時はぎょっとした顔をした。これでもだいぶマシになったほうなんだが。次いで俊介が、聖たちに掴みかからんばかりの勢いで、貴方たちがついていながらと責め立てたもので、私は慌てて彼を宥めた。本日夕刻、客間での出来事である。仔細をパウロと俊介に話すと、俊介は次に憤懣遣る方ないと言った視線を麒麟に向けた。
「女に手を挙げるなんて最低だ」
「うん。俺もそう思う」
麒麟が殊勝にそう言ったので、俊介はそれ以上は言えなくなったらしく沈黙した。桃色が鮮やかで綺麗な夕方だった。まだ鳴く蝉の声を聴きながら、私たちは居酒屋へと向かった。
そして親睦会は次第に宴会へと流れていった。
「へい、白ミソとサガリお待ちっ」
「大将、芋焼酎の水割りをもう一杯」
「あいよ!」
「こと様、余り飲まれますと傷に障るのでは」
「大丈夫ですよ、このくらい」
「へえ、パウロは数か国語も話せるんだね」
「はい、コトさんたちの役に立てるのが嬉しいです」
パウロの飾らない素朴な気立ては麒麟と波長が合ったらしい。俊介は飲み食いしつつ、麒麟に対するわだかまりも融けつつあるようだ。お酒を飲んでにこにこするのは悪いことではない。聖と秀一郎は、座卓に地図を広げ、何やら話し込んでいる。
「ここから」
聖が街の東北を指し、南下する。
「このあたり一帯に宝珠の気配が強い。もちろん、ふるさとにもまだある」
「解った。明日、仕事終わりに東北の児童公園を見てみよう。ああしたところには不可思議が集まりやすい」
「頼む」
「大将、巨峰のチューハイ、本物の巨峰入りで」
私が男たちの話合いそっちのけで言うと、赤ら顔の店主が、がははと笑った。
「相変わらず、無茶言うねえ、御当主は!」
「は?」
麒麟が店主の言葉を聴き咎めた。私は解説する。
「こちら、店主の音ノ(の)瀬鬼太郎さん。うちの一族の方です」
「いやあ、どうも。あんちゃん、ひょろっこいね。豚バラ喰いねえ。もつ鍋もあるぞ」
「はあ」
麒麟は毒気を抜かれた様子でばしばし、鬼太郎に背中を叩かれている。あれ、結構痛いぞ。
「そうですよ、麒麟君。さあ、えのきのベーコン巻きも食べて食べて」
「……あんた幾つ?」
「三十二だけど君は?」
「……二十二」
「なら麒麟君で良いね」
にこっと俊介が笑う。これが彼本来の持ち味だった。
私はこの親睦会が緩やかに皆を輪と結ぶ兆しにほっとしていた。
ブクマ、評価、ご感想など頂けると励みになります。
いつもありがとうございます(*´▽`*)




