好みじゃないけど
かくして明後日の午後一時を柱時計がボオン、ボオンと告げる頃には、客間には私と聖、秀一郎と隼太、そして麒麟が座卓を囲んでいた。よく晴れた日で、青色がくっきり主張している。楓がお茶を淹れて運んできてくれ、ちらりと麒麟を見た。一瞬、過った怒りを私は見逃さなかった。私の青あざを誰が拵えたのか、直感で判ったのだろう。だがその怒りは本当に一瞬で、次には哀れみが浮かんだ。
麒麟が纏う空気は、楓が見抜ける程にはまだ悲嘆の色が残っていたのである。
上等の玉露で口を湿してから私が口を開く。チリン、チリン、と釣忍の音。
「お集まりいただいたことにまずは御礼申し上げます。宝珠の件に関してですが、数を競いながら争うものでなし、三者協力して集めるのが妥当と考えます」
「宝珠に関して、お前らに知らせたのは俺だ。取り分は相応に頂く」
「……俺は音ノ瀬当主に与する」
隼太の言葉に対して麒麟が静かに言った。私の頬を一瞬、見てから。この発言に私は驚いたが、隼太はせせら笑った。
「陰陽大家のお坊ちゃまが、人妻に惚れたか? お前らが組むならそれでも良いが、俺は容赦せんぞ。宝珠の数は限られている」
楓は今、自室にいる。そうするよう、強く言って聞かせておいた。
「そういうことじゃない。俺には音ノ瀬当主に恩がある。それを返すだけの話だ」
隼太がつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「まあ、良い。言っておくが恭司はこちらに就くぞ」
私を見て隼太が告げる。
「そうでしょうね」
私は恬淡と返した。
「彼は楓さんを好いてはいるけれど、貴方のことも大好きですから」
隼太が言葉を失くした顔で、無意識であろう、紫陽花色を掴んだ。
「それでは私たち音ノ瀬一族と麒麟さん、隼太さんはそれぞれ別に宝珠を捜すということで。……残念です」
それから私たちは幾つかの取り決めをして、その日は解散となった。気づけば柱時計が次の時刻を歌っていた。隼太が去って、麒麟は居残っていた。聖と秀一郎は何も言わない。私を負傷させた恨みをここでぶつける程、彼らは子供ではない。麒麟は私の目を真っ直ぐ見てから頭を下げた。
「済まなかった」
「いえ、もうお気になさらずに」
「勇魚のことも、糞親父に話してくれたんだってな。ありがとう。俺は全面的にあんたに助力するよ」
「宝珠は貴方の分も取ってください。大家の後継という地位にあれば、変えられる因習もあるでしょう」
「…………菅谷家には傷を負わせた女の面倒を一生見るという掟がある。あの親父は少しも守っちゃいないが」
ん?
「だから俺は、あんまり好みじゃないけど、あんたが人妻でも、面倒を見なくちゃいけない。好みじゃないけど美人だし、それもいっかと思ってる」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は人妻ですよ」
「あの白いのが死んだら話は別だろう。それに人妻だろうと関係ない。俺は気にしない」
無茶苦茶だ。
白いのと言われた聖は無表情で麒麟を見ている。だからその無表情が怖いんだってば。
「聴いてくれ、音ノ瀬こと」
「……はい」
「俺は本当にあんたが好みじゃないんだ。どちらかと言うとゆるふわ系が良い。あんたは正反対だ。でも、菅谷家次期当主として相応しくありたい」
「……ご立派ですね」
それ以外、私に何が言えただろう。麒麟は満足したように頷き、聖と秀一郎は、見たくなかったけどちらっと見たらやはり空気が硬化していた。好みじゃない好みじゃないと連呼されるのも、かなり複雑なものがある。
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