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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第四章
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花はまた咲く

 寝ている間に雨が降った。私は庭に出て露孕む桜の枝に手を伸べた。

 まだ誰も起きぬ早朝。暁が辺り一帯を染め上げ、明るいプリズムが艶やかだ。

 私は何とか麒麟と協力して宝珠を集められないものかと考えていた。早朝に目が覚め、浴衣の上にピンクベージュのフード付きパーカーを羽織り、考え事をする為に庭に出たのだ。早起きの烏がかあ、と一声鳴いた。

 あれは隼太だ。私たちの動向を逐一見張らせる為に、隼太が寄越しているのだと察しはつく。今、私たちは三つ巴の関係だ。私、隼太、麒麟。それぞれがそれぞれの目的の為に宝珠を捜し求めている。宝珠が大量にあるものならば良いが、如何せん、貴重な珍宝だからこそ宝珠と呼ばれるのだ。数には限りがある。

 枝の露に触れて指先が濡れた。私はその指先を唇に持って行き、舐めた。味はなく、不愛想に物思いを一蹴された気になる。

 陰陽の家か……。

 雅常殿もそれに近い筋ではある。

 私たちコトノハ使いと陰陽師は近しい間柄なのだ。それが今回のように対立する構図にもなり得る。皆で協力するのが最適解だと思うのだけどな。私はしゃがみこみ、雑草をぶちぶち抜き、慌てふためくように身動きするダンゴムシを踏み潰した。八つ当たりではない。害虫だからだ。人がそうと見なした一方的な価値観ではあるが。

 私は麒麟の家に行ってみようかと考えていた。彼からは孤独の匂いがした。実力主義の家に生まれ、愛情を享受出来なかった者特有の。行って何が出来るとも解らないが、麒麟の苦しみを軽減することは出来ないものかと思う。プライドの高そうな彼のことだ。私が彼に同情しているとすれば手荒く撥ねつけるだろう。だが私も頑固だ。やりたいようにやらせてもらう。きっと勇魚もそれを望んでいると信じて。

 もう一度、桜の枝についた露を見上げる。まるで豪勢なシャンデリアだ。

 この桜の幹は、以前はもっと細かった。私のコトノハを受け容れなかった。今は燃え果てた嘗ての花屋敷に行き、父と母の想いを知ってから、私のコトノハを服用してくれた。幹は太く、花の盛りは豪勢になった。


 なあ、麒麟。花はまた咲くのだよ。

 きっとまた咲くのだから、そんなに泣くな。


 これは言えた義理ではない私の、勝手な独白だ。



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