永訣の日
知る人であれば知る話だった。特に不思議な力を操る業界では。問題はその中に麒麟も含まれていたということだ。私にとっては不本意なことに、聖を甦らせた件で、私の名は鳴り響いた。曰はく、死者をも蘇生出来るコトノハの遣い手、と。麒麟のような申し出も、初めてではなかったが。
「お教え出来ません」
「なぜ」
「あの舞は、本来あってはならないものです。また、あったとして誰しもが成し得る訳ではない」
「だがあんたは成し得ただろう?」
麒麟がちらりと聖を見る。
「……万に一つの偶然です。そして代償は大きい。だから私は宝珠を捜し求めているのです」
「どんな代償を払っても構わない。勇魚にもう一度逢えるなら」
私は溜息を吐いた。桜の紅茶で唇を湿す。
「来世でも、そのまた来世でも、大切な人たちに逢えないのですよ? もちろん勇魚さんにもです。貴方に好いた女性がいるのであれば、尚更お薦めしません」
若緑の風が私たちの間を吹き抜けて行った。
「……勇魚とは十離れた兄弟だ。何をするにも俺の後をついてきた。俺もあいつが可愛くて、陰陽の技も教えてやった。あいつがたまたまあの雪原に行けたのは、そのせいでもある。だから俺には、勇魚を甦らせる義務があるんだ」
「それは方便です。貴方は只、もう一度動く勇魚さんに逢いたいだけです」
「そうだ。音ノ瀬こと。あんたもしたんだろう。俺に説教する立場にない筈だ」
一理ある。
「宝珠があれば良いんだろう? 教えてくれ、音ノ瀬こと。死者を生き返らせる舞を、歌を」
私は沈痛な面持ちで、首を横に振った。
ガタッと麒麟が身を乗り出す。すかさず聖が私の前に出て庇う。だが私は聖の身体を柔らかく押し戻した。彼を甦らせた時から。あらゆる苦難の覚悟は出来ている。単純なことだ。聖は私の半身だった。私はその半身を喪って生きて行くことが出来なかったのだ。
「とんだ偽善者だな」
『麒麟兄上。もう止めて』
麒麟の目が驚愕に見開かれる。
『悪戯心で行ってはならないところに行った僕が悪いんだ。仕方のないことだったんだよ』
「勇魚……」
私は今、勇魚の魂に身体を貸している。
麒麟はしばらく呆然としていたが、陰陽という不思議に携わる為か搔き集めた理性で状況を把握して対応した。
「勇魚。済まない。俺がちゃんと見ていてやれば良かった」
『麒麟兄上のせいじゃないよ』
「お前とは、もっと色んなことをする積りだった。二十歳になれば酒を教えて。一緒に飲んで」
麒麟の肩が震えている。そして私もそろそろ限界だ。
『いつまでも、大好きだよ。お兄ちゃん』
勇魚の魂が私から離れる。こうした芸当をしてみせるあたり、流石は陰陽の家の子といったところか。麒麟は右手で顔を覆った。温かな雫が垣間見える。光って、零れ落ちる。勇魚の言葉が、正しく麒麟に届いていれば良いのだが。
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