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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第三章
232/817

はじめましてさようなら

 崩壊の序曲を奏でたのは聖だ。

 麒麟は怪訝そうな顔をした。異国の血が混じっているかのように彫りの深い面長な顔の、眉間に皺が刻まれる。

「何を言っているんだ?」

「この土地は副つ家以外の人間を拒む。こと様は例外だった。麒麟君。君も招かれたからこそ来ることが出来たのだろう。だが恐らく君の弟さんは違った。おばば殿は人形に仮初の命を与え、生きているように見せて君を利用したんだよ」

 麒麟が聖の顔を凝視し、勇魚の顔を見て、それから老婦人の顔を見た。彼女は目をふいと逸らした。それだけで麒麟は聖の言葉の裏付けが取れてしまった。しかしまだ信じ難いのだろう。

「これが、人形? こんなに温かいのに。嘘だろう、おばば様」

「……」

 突如、まさに糸が切れたように勇魚の身体から力が抜け、くたりと床に倒れた。

「勇魚!」

「我らが見つけた時には手遅れじゃった。勇魚は凍った川に戯れに踏み込み、溺れ死んだ」

「勇魚、勇魚。目を開けてごらん。早く家に帰ろう」

 麒麟が勇魚であった人形を抱き上げ、頬に手を当てている。見ていられない。私は聖に降ろしてもらい、コトノハを処方出来る状態にして欲しいと身振り手振りで示した。心得た聖が「(かい)」とコトノハを処方すると、やっと私の声が自由に出るようになった。

「おばば殿。勇魚さんの亡骸はどこにあるのですか?」

「……川横に埋めた。童女たちが小さな墓を作って、花を供えた」

「麒麟さん。行きましょう」


 麒麟は動かない。勇魚に模した、今はもう動かない人形を抱き締めて身じろぎせずにいる。私の声に微かに首を横に振った。

 受け容れられない。

 認められない現実というものは確かにある。

 私は仕方なく聖と共に、外に出て、勇魚の墓らしきところに赴いた。紅梅色の紬は温かく、家を出る時に老婦人が足袋と草履を用意してくれたので、私は凍える思いをせずに済んだ。

 勇魚の墓は清らかな流れの傍にあった。小さくて稚くて、まるで早くに逝ってしまった彼そのもののようだった。金色の福寿草(ふくじゅそう)が手向けられているのを見て、私は胸が詰まった。福寿草の花言葉は「幸せを招く」「永久の幸福」。……そして「悲しき思い出」。

 その、手向けられた福寿草の金色の花弁をそっと撫でる。


 麒麟の。あの若者の救いはどこにあるのか。彼には耐えられまい。


 古民家のほうから、慟哭(どうこく)の叫びが聴こえた。

 私は唇を強く噛んだ。



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