はじめましてさようなら
崩壊の序曲を奏でたのは聖だ。
麒麟は怪訝そうな顔をした。異国の血が混じっているかのように彫りの深い面長な顔の、眉間に皺が刻まれる。
「何を言っているんだ?」
「この土地は副つ家以外の人間を拒む。こと様は例外だった。麒麟君。君も招かれたからこそ来ることが出来たのだろう。だが恐らく君の弟さんは違った。おばば殿は人形に仮初の命を与え、生きているように見せて君を利用したんだよ」
麒麟が聖の顔を凝視し、勇魚の顔を見て、それから老婦人の顔を見た。彼女は目をふいと逸らした。それだけで麒麟は聖の言葉の裏付けが取れてしまった。しかしまだ信じ難いのだろう。
「これが、人形? こんなに温かいのに。嘘だろう、おばば様」
「……」
突如、まさに糸が切れたように勇魚の身体から力が抜け、くたりと床に倒れた。
「勇魚!」
「我らが見つけた時には手遅れじゃった。勇魚は凍った川に戯れに踏み込み、溺れ死んだ」
「勇魚、勇魚。目を開けてごらん。早く家に帰ろう」
麒麟が勇魚であった人形を抱き上げ、頬に手を当てている。見ていられない。私は聖に降ろしてもらい、コトノハを処方出来る状態にして欲しいと身振り手振りで示した。心得た聖が「解」とコトノハを処方すると、やっと私の声が自由に出るようになった。
「おばば殿。勇魚さんの亡骸はどこにあるのですか?」
「……川横に埋めた。童女たちが小さな墓を作って、花を供えた」
「麒麟さん。行きましょう」
麒麟は動かない。勇魚に模した、今はもう動かない人形を抱き締めて身じろぎせずにいる。私の声に微かに首を横に振った。
受け容れられない。
認められない現実というものは確かにある。
私は仕方なく聖と共に、外に出て、勇魚の墓らしきところに赴いた。紅梅色の紬は温かく、家を出る時に老婦人が足袋と草履を用意してくれたので、私は凍える思いをせずに済んだ。
勇魚の墓は清らかな流れの傍にあった。小さくて稚くて、まるで早くに逝ってしまった彼そのもののようだった。金色の福寿草が手向けられているのを見て、私は胸が詰まった。福寿草の花言葉は「幸せを招く」「永久の幸福」。……そして「悲しき思い出」。
その、手向けられた福寿草の金色の花弁をそっと撫でる。
麒麟の。あの若者の救いはどこにあるのか。彼には耐えられまい。
古民家のほうから、慟哭の叫びが聴こえた。
私は唇を強く噛んだ。
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