この子が欲しい
目が覚めると私は上等な羽根布団に寝かされていた。湯たんぽが入っているようで、しもやけになりそうだった足の指から下半身にかけてが温かい。問うように視線を巡らせると、老婦人の顔が目に入った。
「気が付いておいでか。無礼とは存じながら、一服盛らせていただいた。今は声も出ぬ筈。すればコトノハも使えまい」
老婦人は、私にとっては極めて理不尽なことを言いながらも、説明してくれた。
「この氷雪の里は冷たきに親しむ者たちの集う里。あの男、菅谷麒麟の弟が何の間違いか紛れ込んだ。里は宝珠を使った大事な儀式の最中だった。勇魚を捕らえ、その力を贖いとする代わりの人身御供を寄越すと麒麟は言いおった。そこで連れて来られたのが貴方様じゃ」
あらかた納得した。承服出来るものではなかったが。頃合いを見計らったかのように麒麟が姿を現す。私と目を合わせようとしないのは、多少の後ろめたさがあるからか。
「じゃあ俺は、勇魚を連れて帰る」
「音ノ瀬当主はどうにでもしろと。薄情じゃのお」
「元々、慣れ合う仲じゃない」
どこまでも突き放した物言いに、私が傷ついたのは確かだ。ダッフルコートの温もりが蘇る。
「泣かないんだね」
麒麟が私の顔を覗き込む。
「普通、こういう時は、多少めそめそするくらいが可愛いよ。……ごめんね。おいで、勇魚」
勇魚と呼びかけたところには、十を過ぎたかと思しき少年がいた。澄んだ瞳は深海の色で、名前に相応しい。麒麟は寒くないかと彼の服装を点検した後、その肩を抱いて私が寝かされている客間から出て行こうとした。待って。待って。まだ、足りない。貴方はまだ何か隠している。いや、気づいていないのか。老婦人はそれを知っていながら知らぬ振りをする。私の見立てでは、恐らくあの勇魚という少年は――――――――。
「失礼する」
その時、凛とした声が響いた。こちらに向かう足音。
「私の主であり妻でもある方がこちらにご滞在の由。迎えに馳せ参じた」
純白の髪、紅玉の瞳。
玉虫色の単衣の上に、紺色の外套を着た聖が立っていた。
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