振り子運動
雪にすっぽり覆われた小高い山の上には黄金色の古民家があった。直感でこのあたりを仕切る家だろうと察する。陽光に雪白と黄金が照り映え眩しい程だ。中から赤と青の着物を着た女の子が二人出て来た。丁度六歳くらいだろうか。ぱっちりした目で色白の、愛らしい子たちだ。
「いらっしゃいませ。お客様たちはお連れ様ですか?」
「うん、そう。お連れ様。おばば様に菅谷麒麟と音ノ瀬ことが来たと伝えてもらえるかな?」
「音ノ瀬」
彼女たちは麒麟の言葉を繰り返し、顔を見合わせた。
「音ノ瀬家の御当主様でいらっしゃいますよね? 副つ家の方とお出でではないのですか?」
まだ幼いのにはきはきとしっかり喋る子たちだ。
「うん。今日は違うんだ」
笑顔で言い切る麒麟に、それでもまだ納得しないものを抱えている様子で、私と麒麟は古民家の中に通された。足が冷たかったでしょうと盥に入れたお湯が出される。ああ、湯の有難さよ。生き返る。
「おいでかえ」
奥から威厳ある老婦人が出て来た。眦の吊り上がった、痩せた狐を思わせる風貌である。
当然のようにお茶が供される。薬草茶だろうか。変わった風味だ。双子のような女の子たちは引っ込んでしまった。後には囲炉裏と、老婦人と私と麒麟のみ。
「何か悲しいことがおありだったか」
不意に老婦人が私を眼光鋭く射抜きそう言った。私は自分でも不思議と平静に答えることが出来た。
「悲しみと喜びの連続が人生です」
「ふん、確かに。菅谷の。宝珠はこれにて」
老婦人が綺麗な蒔絵の施された文箱をすいと麒麟と私の前に遣る。麒麟は断ってから箱を開ける。そこには見事な雪の結晶体が二つ入っていた。溶けることのない様子で燦然と輝く。
「話を聴いていたのは菅谷だけであったが、ここは元来、ふるさとの域。副つ家の管轄じゃ。その、主筋である音ノ瀬に宝珠の片方を譲ったとて差し支えあるまい」
「話が早くて助かるよ、おばば様」
文箱を受け取りながら微苦笑しつつ麒麟が言う。ここは菅谷の名前一つで通したかったところなのだろう。音ノ瀬の私は思わぬ横入だったことになる。
更に私はその後、湯まで供され、ノースリーブワンピースの代わりに紅梅色の紬を着せてもらった。囲炉裏の火を見ながらうとうとして、そろそろお暇しようとしたが身体に力が入らない。そのままぐらりと傾ぎ床に倒れた。
暗闇の中、密談の声がする。
「とんだ土産を持ってきたものじゃな」
「そう。極上だろう? 勇魚を返してくれ」
「良いだろう。だが音ノ瀬当主に事あれば必ず副つ家が動く」
「その時は俺が対処するよ」
「お前で抑えこめれば良いがな」
ぼそぼそとしたコトノハ。
ああ、闇に炎が躍っている。
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