兎入牢
聖たちから話を聴いた時、聖は隼太の交換条件に対して「諾」と答えたのだろうとすぐに察しがついた。今日は月曜日で楓もうちにいる。
「なぜ、私の許しもなく」
「こと様が知られれば、恐らく反対するだろうと思ったので」
二人の寝室で交わす小声は悪いみそか事のようで。秀一郎は、後は聖に委ねる心積もりのようで、俊介の首根っこを掴んでさっさと立ち去った。
聖が迫るので、鼓動が早くなる。
「こと様。我々の入手した情報があれば、宝珠捜しが格段にし易くなるのは明らかです」
「……罠かもしれません」
私は腕の中に聖を置いている。所謂、逆壁ドンというやつだ。この部屋の壁は珪藻土なので、そこから香る空気が清しい。
「その判別は致しかねます。ですから、こと様にはその見極めをお願いしたいのです」
紅い瞳。
壁ドンしているのは私の筈なのに、逆に追い詰められている気がする。この紅は卑怯なのだ。いつも私を魅了して自分の望むように動かそうとする。私は聖をきっと睨んだ。
「卑怯者」
「如何にも。誹りは幾らでも受けます。全ては宝珠が必要なだけ集まったら」
愚かで純粋な私だけのウサギさん。ここで泣く訳にはいかない。聖の前であっても、いや、聖の前だからこそ、私は強い音ノ瀬家当主を演じねばならない。私は自分の中の弱さを踏み潰した。それから、文机から重い鍵を取り出す。時代劇などでよく見かけるあれだ。
「副つ家の音ノ瀬聖に命じる。時が来るまで地下牢で蟄居せよ」
「……そのようにして、僕を危険から遠ざけなくとも」
私は聖の腕の中に飛び込んだ。先程とは形勢が逆転した。聖は私を受け留め損ねない。只の一度も。楓に何と説明するか問題だ。まさか私のエゴで聖を安全な檻に閉じ込めたとは言えない。必ず確たる理由を求めるだろう。そして出してあげてと頼むのだ。
私は笑った。芙蓉の花のように見えたかもしれない。聖が息を呑む。背中に回される頑丈な腕。
「お願いします。もう二度と、貴方を喪いたくないのです。次はない。私に対処できることはない」
聖は私を抱き留めたまま、ふう、と息を吐いた。
「いざとなればこと様のご意向に背いてでも出ます」
それが、聖が私の命に服した瞬間だった。
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