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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第二章
217/817

見返りは王子様

挿絵(By みてみん)

 新装花屋敷に俊介と秀一郎は来ていた。ここに隼太が来ていると風により知ったからである。燃える前はどこか陰鬱だった花屋敷だが、威勢よく燃えたあとは小ざっぱりとした屋敷となった。住む人間にも屋敷にとっても、一種の(みそぎ)が必要だったのだろう。迎えに出た隼太は、にやりと片方の口角と上げた。まるでお前たちの用件などお見通しだと言わんばかりに。

 初夏らしい朧の空気が揺蕩っていた。蝶が群れ集い、いつの間に丹精したのか花壇には薔薇が咲き誇っている。

「そろそろ来る頃だと思っていたぞ」

「やあ、いらっしゃい」

 隼太の声に被せるように言ったのは大海だ。若い見た目からは到底信じられないが、隼太の父である。お茶を淹れようと鼻歌を歌いながら台所に行く。隼太はそれを目で追った。一度は自死しようとした父の後ろ姿を見て、隼太が何を思うのか解らない。余人の立ち入るところでもないのだろう。秀一郎たちは案内された、暖炉のある広いリビングに置いてある椅子にめいめい座った。

「それで? 菅谷麒麟の情報を集めに登山くんだりまでしたのか。ご苦労なことだな」

「君に縋ろうという僕たちには返す言葉もないよ。けれどどうか、君の知る限りのことを僕たちに教えてくれないか」

 秀一郎の言葉に隼太はふん、と鼻を鳴らした。

 丁度そこに、大海が紅茶を運んできた。

「アールグレイ……」

 ぱ、と大海の顔に花が咲く。

「そう、そうなんだ。しかもこれは上等な茶葉だよ? 磨理が好きだったんだ」

 隼太は無表情を貫く。精神を狂気という海の瀬戸際まで追い遣った者特有の、澄んだ瞳。もう一歩、向こうへ行けば帰れなくなる。秀一郎は大海の情報を予め知っていたので、動揺することなく済んだが、俊介は戸惑いの空気を纏った。

「大海、もう良いから花の世話でもしてやれ」

「はいはい、お父さんはいつでも隼太の言いなりですよ」

 秀一郎はぎくりとするが、隼太は動じない。自分の父親が正気と狂気の合い間にいると知っているからだ。


「それで? 俺は情報の見返りに何を得られる?」

 アールグレイを飲みながら、隼太が何事もなかったかのように言う。

「何を望む?」

 秀一郎が問い返す。

「音ノ瀬こと……と言えれば面白いのだがな」

「冗談を言えるくらいには暇なんだね」

「そうでもないさ。汚れた金の洗浄、フロント企業の経営から株式相場まで」

 秀一郎が呆れた。

「よくもまあ、手広く」

「俺の望むものをと言っただろう」

「戯言に割く時間はない」

 隼太がぐっと身を乗り出した。

「なら話は簡単だ。鬼兎をしばらく俺に預けろ」


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