見返りは王子様
新装花屋敷に俊介と秀一郎は来ていた。ここに隼太が来ていると風により知ったからである。燃える前はどこか陰鬱だった花屋敷だが、威勢よく燃えたあとは小ざっぱりとした屋敷となった。住む人間にも屋敷にとっても、一種の禊が必要だったのだろう。迎えに出た隼太は、にやりと片方の口角と上げた。まるでお前たちの用件などお見通しだと言わんばかりに。
初夏らしい朧の空気が揺蕩っていた。蝶が群れ集い、いつの間に丹精したのか花壇には薔薇が咲き誇っている。
「そろそろ来る頃だと思っていたぞ」
「やあ、いらっしゃい」
隼太の声に被せるように言ったのは大海だ。若い見た目からは到底信じられないが、隼太の父である。お茶を淹れようと鼻歌を歌いながら台所に行く。隼太はそれを目で追った。一度は自死しようとした父の後ろ姿を見て、隼太が何を思うのか解らない。余人の立ち入るところでもないのだろう。秀一郎たちは案内された、暖炉のある広いリビングに置いてある椅子にめいめい座った。
「それで? 菅谷麒麟の情報を集めに登山くんだりまでしたのか。ご苦労なことだな」
「君に縋ろうという僕たちには返す言葉もないよ。けれどどうか、君の知る限りのことを僕たちに教えてくれないか」
秀一郎の言葉に隼太はふん、と鼻を鳴らした。
丁度そこに、大海が紅茶を運んできた。
「アールグレイ……」
ぱ、と大海の顔に花が咲く。
「そう、そうなんだ。しかもこれは上等な茶葉だよ? 磨理が好きだったんだ」
隼太は無表情を貫く。精神を狂気という海の瀬戸際まで追い遣った者特有の、澄んだ瞳。もう一歩、向こうへ行けば帰れなくなる。秀一郎は大海の情報を予め知っていたので、動揺することなく済んだが、俊介は戸惑いの空気を纏った。
「大海、もう良いから花の世話でもしてやれ」
「はいはい、お父さんはいつでも隼太の言いなりですよ」
秀一郎はぎくりとするが、隼太は動じない。自分の父親が正気と狂気の合い間にいると知っているからだ。
「それで? 俺は情報の見返りに何を得られる?」
アールグレイを飲みながら、隼太が何事もなかったかのように言う。
「何を望む?」
秀一郎が問い返す。
「音ノ瀬こと……と言えれば面白いのだがな」
「冗談を言えるくらいには暇なんだね」
「そうでもないさ。汚れた金の洗浄、フロント企業の経営から株式相場まで」
秀一郎が呆れた。
「よくもまあ、手広く」
「俺の望むものをと言っただろう」
「戯言に割く時間はない」
隼太がぐっと身を乗り出した。
「なら話は簡単だ。鬼兎をしばらく俺に預けろ」
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