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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第二章
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悪い癖

私はぱちりと目を覚ました。ここは、私の寝室ではない。私と聖、二人で使う寝室だ。私の隣に聖が端座している。私と目が合うと、滲むような微笑を浮かべた。

「お気がつかれましたか」

「聖さん……秀一郎さんと俊介さんは?」

「帰りましたよ。御当主によろしくと言って。知らぬ間に疲れが溜まっていたんでしょう」

 後半は私を指して言った言葉だ。私たちの寝室は、調度品からして品よく美麗だ。

「夢を見ていました」

 私はまだ朧な眼差しで語る。

「両親の」

「……」

「不思議ですね。生前は苦痛を味わわされたりもしましたが、亡くなってみると懐かしい思い出ばかりが湧いて。禁呪など、父や母が知れば私を勘当したでしょう」

 私は咽喉の奥で笑った。

「そしたら僕が、こと様をふるさとに頂戴しますよ」

 断固とした口調に、それもまた聖らしいと私は唇を緩めた。

「母も厳しい人でしたが、時折、子守唄を歌ってくれました。子供の私が寝る前の時間帯は、母も忙しかったでしょうに」

「どんな子守唄だったんですか?」

 聖の口調は知りたい、と言うより私に凝りを吐き出させようというものだった。溜まった(おり)を、彼もまた知っている……。


「あの山越えて海越えて

 白い兎がいるとこに永遠楽土があるという

 永遠楽土は夢の国  甘い砂糖でできた国

 白い兎にあったなら そこはもう夢の国」


「……優しい歌ですね」

「はい」

「僕はずっと、前御当主たちが、こと様を虐げているのだとばかり考えていました。……それで、音ノ瀬の改革を、」

 私はみなまで言わせず聖の唇を人差し指で塞いだ。

「悲しいコトノハを言ってはいけない。聖さんはともすれば自分が悪役になって済ませようとする。悪い癖です」

「…………」

 聖は唇にあてられた私の指を甘く噛んだ。



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