悪い癖
私はぱちりと目を覚ました。ここは、私の寝室ではない。私と聖、二人で使う寝室だ。私の隣に聖が端座している。私と目が合うと、滲むような微笑を浮かべた。
「お気がつかれましたか」
「聖さん……秀一郎さんと俊介さんは?」
「帰りましたよ。御当主によろしくと言って。知らぬ間に疲れが溜まっていたんでしょう」
後半は私を指して言った言葉だ。私たちの寝室は、調度品からして品よく美麗だ。
「夢を見ていました」
私はまだ朧な眼差しで語る。
「両親の」
「……」
「不思議ですね。生前は苦痛を味わわされたりもしましたが、亡くなってみると懐かしい思い出ばかりが湧いて。禁呪など、父や母が知れば私を勘当したでしょう」
私は咽喉の奥で笑った。
「そしたら僕が、こと様をふるさとに頂戴しますよ」
断固とした口調に、それもまた聖らしいと私は唇を緩めた。
「母も厳しい人でしたが、時折、子守唄を歌ってくれました。子供の私が寝る前の時間帯は、母も忙しかったでしょうに」
「どんな子守唄だったんですか?」
聖の口調は知りたい、と言うより私に凝りを吐き出させようというものだった。溜まった檻を、彼もまた知っている……。
「あの山越えて海越えて
白い兎がいるとこに永遠楽土があるという
永遠楽土は夢の国 甘い砂糖でできた国
白い兎にあったなら そこはもう夢の国」
「……優しい歌ですね」
「はい」
「僕はずっと、前御当主たちが、こと様を虐げているのだとばかり考えていました。……それで、音ノ瀬の改革を、」
私はみなまで言わせず聖の唇を人差し指で塞いだ。
「悲しいコトノハを言ってはいけない。聖さんはともすれば自分が悪役になって済ませようとする。悪い癖です」
「…………」
聖は唇にあてられた私の指を甘く噛んだ。
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