疑惑のパウンドケーキ
喫茶店の硝子戸についたベルが来客を告げる。今日はトレーナーにジーンズの聖が姿を現した。先にカウンター席に着いていた、今日も白の三つ揃えの秀一郎が片手を上げると、聖は唇に微笑を刷き、彼の隣に座った。
「彼と同じものを」
「畏まりました」
マスターが豆の選別から入る。拘りがあるのだ。
「それで話って何だい? 秀一郎君」
「うん。その前にシニア携帯の電源を切っておいてくれよ。話に水を差されたくない」
聖が微苦笑して携帯の電源を切る。シニア携帯と言うあたり、秀一郎も中々意地が悪い。因みに秀一郎は最新式のスマートフォンを持っている。育ちや負うべき役割によって携帯一つとってもこれだけ異なる。秀一郎は薫を飲みながら唇を湿し、咽喉を潤した。聖はじっと待っている。秀一郎が徒に焦らしている訳ではない分、殊更、沈黙を保つ。
「宝珠は順調に集まっているようだね」
「うん。先日も恭司君がこと様に協力を申し出てくれたとかで」
「恭司……、佐々木恭司か。彼は音ノ瀬隼太の子飼いだったな?」
ガーーーーと豆を挽く音。
棚には今日は元気の良い黄色のラナンキュラスが活けてある。
「それが気になるのかい」
「そもそも音ノ瀬隼太はなぜ宝珠のことを我々に話した? 彼の性格であれば競合相手と目して自力で宝珠を捜すだろう。それをわざわざことさんの業を浄化すると教え、こちらの手助けになるような言動をした。不自然だと思わないか」
聖は無表情で秀一郎の話を聴いていた。
目の前に薫の入ったコーヒーカップとパウンドケーキが置かれる。
「――――もし音ノ瀬隼太に企みがあるのだとしても、あの晩の彼に嘘のコトノハはなかった。彼は真実を語っていたよ、秀一郎君。けれど君の懸念も解る」
聖は薫を一口飲む。飲んで、一息吐いたようにほっと表情を緩めた。
「もし、音ノ瀬隼太が僕らに宝珠を集めさせ、横から搔っ攫おうと考えているのだとしたら、些か分が悪くないかな」
「確かに聖君やこと様、僕たちを相手取るのは骨だろう。けれど彼には心酔者もいる」
「フォーゲルフライ……」
「そう。少し調べてみたのだけどね。彼らはやはり彼らのみの王国を欲しがっている。解るかい、聖君。彼らが万一、彼らの国を手に入れたとして、そこに誰が君臨するか」
「……音ノ瀬隼太」
「僕には、この話には初めからからくりがあったように見えて仕方ない」
聖は黙ってパウンドケーキにフォークを刺した。ここのパウンドケーキはラム酒がよく効いていて、甘く漬け込んだドライフルーツがずっしり入っている。
隼太は、このパウンドケーキとは正反対だ。甘さを一切排して生きる。自由に生きれば良い、と聖は思う。けれどそれがことの未来に関する事情となれば、話は別だった。
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