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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第二章
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親莫迦

 何とはなしにかったるい朝だ。私は浴衣のままごろごろと転がる。偏見だが結婚したらこのようなことはしなくなると考えていた。そうでもないらしい。いきなり淑やかになったら、それはそれで不自然だろう。もう柔らかに笑むような空気が射してきて、ねえ朝だよと促す。

部屋の違い棚を見る。以前はここにビー玉や蝉の抜け殻が置いてあった。楓が完全に一人部屋に慣れた時、私が持たせた物だ。その不在は、いつも私に少しの寂しさを与える。私は起き上がって箪笥から今日の着物を選ぶ。生成色と淡いピンクが混じった紬を選ぶ。楓は今、寒色系をよく好むが、逆に私は暖色系も好むようになってきた。これも心境の変化だろうか。不思議なものだ。帯締めには赤紫を選んで差し色とする。顔を洗いに洗面所に行くと、もう制服を着た楓が立っていた。

「おはよう、ことさん」

「おはようございます、楓さん」

 楓の制服は白を基調として袖は長いパフスリーブ、リボンは紺色でセーラーカラーにアメジスト色の細い二本線が入っている。可憐で洒落ていて、楓によく似合っている。楓は私が顔を洗い終わるのを待っていて、終わると髪に手を伸ばした。櫛でよくとかし、浅葱色の組紐で結んでくれる。私も楓の髪を梳く。サラサラの猫っ毛は、肩を超すくらいに伸びていて、可愛い。細い三つ編みを両サイドから編んで、後ろでまとめる。

 ……うちの子は何て可愛いんだろう。

 親莫迦ここに極まれりの感慨を抱いてしまう。聖はとっくに朝の支度を終え、それどころか朝食の支度もしてくれている。余り待たせるのは悪い。早く行こう。


 座卓には聖の心尽くしの朝食が並んでいた。

 法蓮草の胡麻和え。鮭の塩焼き。なめこの大根おろし和え。豆腐と油揚げの味噌汁。

 最近では私と聖が順番に朝食を作っている。初めは私が教えることが多かった聖だが、元々の慣れもあって、今では私を超す程の腕前に成長している。


「おはようございます。こと様、楓さん」

「おはようございます、聖さん」

「おはよう、ひーくん。いっつも凄いねっ」

「楓さんも練習すれば作れるようになりますよ」

「ほんと? じゃあ、ひーくんが教えてくれる?」

 

 赤い瞳がきょとんとする。


「そこはこと様にご指南頂いたほうが妥当かと……」

「ひーくんに教えてもらって、その内、ことさんを驚かせる料理を出すの」

 聖の双眸が優しく笑んだ。私をちらりと見る。

 幸せ者ですねと言われた気がした。

「成程。ではお教えしましょう」

「うん!」

 うちの子は何て可愛いんだろう!

 楓が我が家に来てから、私の親莫迦機能は発動しっぱなしである。

 楓と聖。掛け替えのない私の家族。

 こんな日常が、朝が、ずっと続く為ならば、私はどんな努力も惜しまない。


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