親莫迦
何とはなしにかったるい朝だ。私は浴衣のままごろごろと転がる。偏見だが結婚したらこのようなことはしなくなると考えていた。そうでもないらしい。いきなり淑やかになったら、それはそれで不自然だろう。もう柔らかに笑むような空気が射してきて、ねえ朝だよと促す。
部屋の違い棚を見る。以前はここにビー玉や蝉の抜け殻が置いてあった。楓が完全に一人部屋に慣れた時、私が持たせた物だ。その不在は、いつも私に少しの寂しさを与える。私は起き上がって箪笥から今日の着物を選ぶ。生成色と淡いピンクが混じった紬を選ぶ。楓は今、寒色系をよく好むが、逆に私は暖色系も好むようになってきた。これも心境の変化だろうか。不思議なものだ。帯締めには赤紫を選んで差し色とする。顔を洗いに洗面所に行くと、もう制服を着た楓が立っていた。
「おはよう、ことさん」
「おはようございます、楓さん」
楓の制服は白を基調として袖は長いパフスリーブ、リボンは紺色でセーラーカラーにアメジスト色の細い二本線が入っている。可憐で洒落ていて、楓によく似合っている。楓は私が顔を洗い終わるのを待っていて、終わると髪に手を伸ばした。櫛でよくとかし、浅葱色の組紐で結んでくれる。私も楓の髪を梳く。サラサラの猫っ毛は、肩を超すくらいに伸びていて、可愛い。細い三つ編みを両サイドから編んで、後ろでまとめる。
……うちの子は何て可愛いんだろう。
親莫迦ここに極まれりの感慨を抱いてしまう。聖はとっくに朝の支度を終え、それどころか朝食の支度もしてくれている。余り待たせるのは悪い。早く行こう。
座卓には聖の心尽くしの朝食が並んでいた。
法蓮草の胡麻和え。鮭の塩焼き。なめこの大根おろし和え。豆腐と油揚げの味噌汁。
最近では私と聖が順番に朝食を作っている。初めは私が教えることが多かった聖だが、元々の慣れもあって、今では私を超す程の腕前に成長している。
「おはようございます。こと様、楓さん」
「おはようございます、聖さん」
「おはよう、ひーくん。いっつも凄いねっ」
「楓さんも練習すれば作れるようになりますよ」
「ほんと? じゃあ、ひーくんが教えてくれる?」
赤い瞳がきょとんとする。
「そこはこと様にご指南頂いたほうが妥当かと……」
「ひーくんに教えてもらって、その内、ことさんを驚かせる料理を出すの」
聖の双眸が優しく笑んだ。私をちらりと見る。
幸せ者ですねと言われた気がした。
「成程。ではお教えしましょう」
「うん!」
うちの子は何て可愛いんだろう!
楓が我が家に来てから、私の親莫迦機能は発動しっぱなしである。
楓と聖。掛け替えのない私の家族。
こんな日常が、朝が、ずっと続く為ならば、私はどんな努力も惜しまない。
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