献身と純愛
それから毎日のように、少しずつ、一族の者たちや隠れ山に住まう人たちから、宝珠が送り届けられた。驚くべきは俊介もまた、宝珠を持参したことだった。多面体のクリスタルのように見えるそれの気配は、紛うかたなく宝珠だった。蕎麦茶を出した私に、やや得意そうな面持ちで言う。
「これでも探偵稼業ですからね。宝珠の話を聴いた時からアンテナを張ってたんです。それは新進気鋭の芸術家のアトリエにいつの間にか紛れ込んでいたそうで、オブジェとして置いていたところ、交渉して譲渡してもらいました」
「金銭的な負担があったのでは」
「そこはそれ。話術です」
俊介が朗らかに笑う。
釣忍もそれにつられたように澄んだ笑い声を聴かせる。そろそろ暖かい陽気が増えて、縁側の硝子戸は開け放してある。日光が射し込み、陽だまりで猫が微睡みそうだ。暖色の小さなセロファンを撒き散らしてまぶしたような、そんな昼前。
日頃の言動で忘れがちだが、俊介はそれなりに優秀な探偵なのだった。思えば彼にはかなり助けられてきた。私以外の女性(例えば千秋など)と、幸せになってくれれば万々歳なのだが、残念ながら俊介は、私が人妻になった今でも、私への恋慕の情を断ち切れずにいるらしい。それは秀一郎も同じことで、こればかりはどんなコトノハを処方してもどうともなるものではない。
「よろしければお昼を食べて行かれませんか。せめてものお礼に」
「良いんですか?」
「大したものは出せませんが」
「実は宝珠の他に、アボカドと鮪を持って来てるんです」
「……」
急遽、本日の昼食はアボカドと鮪丼と決まった。
アボカドはカロリー高めなのだが、構うものか。美味しければそれが正義なのだ。
このねっとりした独特の感触と、鮪の新鮮に躍る身が絶妙に合う。ああ、醤油と海苔の忠実な家臣よ! 俊介はこれを三杯食べた。私はこれを今は留守の聖と楓にも食べさせてやりたく思った。すると俊介が余分のアボカドと鮪も何も言わないのに気前よく渡してくれた。
こいつ、良い奴だなあ。
しかし得てして良い人、と称される男性程縁遠い。自分がこいつの祖母だったら猫っ可愛がりするのだが、男女の仲となると、と圏外になるのはそこらあたりに起因しているのだろうか。
俊介が帰った後、後片付けをして、風の知らせにふと振り向くと、そこには和製天使、ではなく恭司が立っていた。すっかり青年のなりとなった彼はいつの間に庭に入り込んだものか、物音一つ立てずに静かに立っていた。
「恭司さん、どうされました?」
「楓に変わりはないか」
純愛だよなあ。
私は微笑んで答える。
「元気ですよ。今日も学校に行っています」
「宝珠を集めていると聴いた」
「はい」
恭司の顔に桜の枝の黒が重なっている。白と黒のコントラストは、孤独な青年をより一層、物寂し気に見せる。私は何かに突き動かされるように言った。
「恭司さん、お昼を食べて行かれませんか?」
「カニクリームコロッケ?」
「いえ、アボカドと鮪丼です」
私の分を後は我慢すれば良い。
「……食べてやっても良い」
恭司が庭の下草を踏みしめながら縁側に歩み寄る。私は野生の猫を手懐ける気分だった。
「宝珠の件、俺も協力してやる」
アボカドと鮪丼を二杯食べてから、恭司は何でもないことのように言った。楓のことを想ってのことだろう。悔しいが、非常に悔しいが、恭司であれば楓の相手として認めてやっても良いと思うのだ。ここまでの献身と純愛を見せられては。但し、それには隼太との繋がりを切って欲しいと考えるのが親心だった。
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