幸せを君に
紫子は彼女の知る他の宝珠の在り処を教えてくれてから、去って行った。一日の内、それら全てを回収するのは無理と判断した私と聖は、更に一つだけ、宝珠を手に入れてから今日のところは解散することにした。私と聖ならばまだ何とかなるが、楓がいる。無茶は出来ない。幸い、残る一つはふるさとを流れる川の上流の水草に引っ掛かっているということで、意思を持つ相手との交渉にはならないようだ。三人で上流のほうまで歩いて行く。空一面が桃色の夕気色だ。圧巻である。
風がもうすぐだよと知らせた。
解った、ありがとうと私も答える。
するとそこには西瓜を冷やす為に川に浸けているような、不思議な光景があった。丁度、楓が着ているパーカーのようなサックスブルーの、金平糖に似た形状のものが清流に浮きつ沈みつあったのだ。大きさはサッカーボールくらいか。聖が回収する。
これで今日の成果は紫子の扇と、この球体の二つになる。欲を言えばもう少し欲しいところだが、切り上げ時だろう。竹林の中を歩きながら、楓が聖に琴を今度聴かせてもらうことを約束していた。私はそれを微笑ましく眺める。
帰宅して、家中の窓を開けて換気する。今日、手に入れた宝珠は真っ先に安置している。もう空は灰紫のような案配で、夜が声高に主張している。それぞれ風呂に入り、うどんを茹でて食べる。味付けは柚子胡椒、葱、めんつゆ。単純な味が疲れた身体を癒してくれる。尤もふるさとに行った疲れは清涼なもので、淀んだ疲れは欠片もない。楓は流石に電池切れのように、食事が終わるとぱたりと寝てしまった。風邪をひかないよう、布団の調節をしてから私は彼女の部屋を出る。客間に戻ると聖が微笑して待っていた。
月桃香を焚き、釣忍の音を聴く。風はやや冷たいが、火照った身体に心地好い。日頃の運動不足を痛感するのはこんな時だ。縁側に聖と二人並び、何を言うでもなく只、寄り添っていた。
「こと様」
「はい」
「今回や今までは穏便に運びましたが、次からはどうなるか解りません」
「……」
「もし宝珠を持つ相手がこと様や楓さんに害を成そうとするなら、僕は相手を屠ることも厭わない積りです」
そうやってまた一人悪者になるのか。
私は俯き、今はほぼ黒々となっている下草を見つめた。
「聖さんだけには背負わせません。元は私の撒いた種です。必要であるならば、私もこの手を汚しましょう」
「それをさせない為の副つ家です、鬼兎です」
「……」
頑なだ。悲しい程に。
私たちは互いの目を見ないで、まるで下草に答えがあるというように俯き、コトノハを交わしていた。不意に湧いた想いを何と言うのだろう。私は聖と幸せになろうと思った。祝言の時より何より、聖を幸せにしたいと願ったのだ……。
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