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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第二章
207/817

笑顔

 風はまだ少し冷たいが、絶好の行楽日和である。普段は着物が多い私も、今日は動きやすい白いシャツに紺の柔らかい綿のジーンズを穿き、足には紫紺のスニーカー。ふわりとしたピンクベージュのパーカーを羽織っている。これは楓と色とサイズ違いで、楓は生成色のトレーナーに、グレーのジーンズを穿いてサックスブルーのパーカーを羽織っている。靴がピンク色のスニーカーなのは、私が街で一目惚れして、ぜひにと楓に進呈した為である。寒色系が好きな楓も、これは気に入ったようで、ありがとう、ことさん、と飛びついた時の可愛さと言ったら――――――――。

「こと様、お手が止まっています」

 ここで白兎の水差し。じろーりと見るが何食わぬ顔でビニールシートを広げている。

 ここは竹林の見える河原である。水清きふるさと。

 そう、私たちは今、音ノ瀬一族の聖地であるふるさとに来ている。理由はもちろん宝珠捜しである。水辺に咲く白く可憐なオランダガラシや、黄色い菜の花が揺れている。チチチと小鳥の(さえず)る音。竹林のざわめき。清流の音色。綺麗な水彩画のようだ。油絵程強く主張しない。

ここに来ると五感の全てでふるさとを味わいたくなる。途中まで車で運転して(機械音痴、免許を取るのに頑張ったらしいが私は彼特有の目くらましも使ったのではと疑っている)途中からは徒歩でここまで来た。ここはコトノハの聴こえが良い。何かあれば風が知らせてくれるだろうと、お昼にすべく今、準備をしているのだった。シートを敷いて、私と聖と、そして楓も手伝ってくれたお弁当を開ける。食べる前にお絞りで手を拭くのを忘れずに。

 高い空を(とび)が飛んでいる。楓の握った胡麻塩お握りを盗ったりしてみろ。焼き鳥にしてやる。

(くう)

 念の為、上空からのシールドを施し、私はタコさんウィンナーやブロッコリーのマヨネーズ焼き、鶏の唐揚げなどを楓と聖それぞれの紙皿に載せて渡した。聖の脇にある大きな水筒には熱いほうじ茶が入っている。わわ、胡麻塩お握り、塩気が程良く効いて胡麻の風味が白米の旨味を引き立てて完璧だ……! 窺うように私を見ていた楓に、笑顔で大きく頷きとても美味しいと告げると、楓の顔にも笑みが花開いた。おおう、可愛い。ノックアウトされた私に、聖から紙コップが差し出される。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「パックからですが僕が淹れました。あと、唐揚げは僕担当です」

 ご存じでしょうが、と付け加える彼が、私は楓とは別の意味で愛おしくなる。まさか聖が、少女に対抗しようとする日が来ようとは。笑いを嚙み殺してほうじ茶を一口。うん、この独特の芳香。

「美味しいですよ、聖さん」

 そう言うと、聖もまたにっこり笑ったものだから、心臓に悪い。この男は自分の笑顔の破壊力を把握しているのだろうか。

「秀一郎さんたちも来られれば良かったですねえ」

「そうですね。ですが彼らにも仕事がありますから」

 そう言う聖は聖でニートのように見えて、きちんと彼の職務を果たしている。時々、家を離れるのもその為で、彼はふるさとと音ノ瀬の寺を管理下に置いているのだ。半分、単身赴任のようなものだと私は考えている。

 私たちの食事も終盤に差し掛かったところ、それは来た。最も素早く反応したのは聖だった。私たちより前に出る。

 そこには藤紫の打掛姿の麗しい鬼が立っていたのだ。



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