色模様
吐息がかかるくらいに近く、隼太の顔が見える。面は良いんだよなこいつ。
私はその整った顔の上方、額にデコピンを喰らわせた。
「って、」
「冗談は顔だけにしてください」
「どういう意味だ」
「こと様、こちらへ」
状況を見て取った聖が上座に座る私を、より自分に近いほうへと招き寄せた。静かな赤い瞳が警戒の色に煌めいて綺麗だ。そう。私はこの色の他、何色をも選ばない。紫陽花色とて例外ではない。唯一例外があるとすれば――――。私は、今はもうきっと眠りに就いているであろう楓のことを想う。私が聖のアキレス腱なら楓は私のアキレス腱だ。ふん、と隼太が鼻を鳴らし立ち上がる。
「興が醒めた。帰る」
隼太。お前、かっこつけてるけどポリ袋に真珠色の球体をいくつも入れてぶら下げてる様は締まらないぞ。
ともかく隼太は退散し、私と聖はもう一杯、桜茶を飲んだ。私は座卓に転がる真珠色をちょいとつつく。隼太の話が真実であるなら、これは宝珠だ。どこか相応しい場所に納めておく必要がある。
「聖さんはどう思います? 隼太さんの話」
私はもう幼い頃からこのように、何度も何度も聖に色んなことを問いかけて来た。聖は顎を指で挟むと、一つ一つのコトノハを吟味するように処方した。
「まず、彼にとって我々に嘘を吐くメリットですが。猟犬のように使い、成果を横取りすることも有り得ます。けれど今回の彼はフェアに宝珠を分配しました。これらのことから鑑みるに、虚言妄言の類ではないのではないでしょうか」
聖の声は聴いていて心地好い。さくりさくりと真実を切り分けて行く。客間に小さな蟻が上がりこんでいた。二、三匹いる。青い藺草に散る黒点。庭から上がって来たのだろう。すると白蛇がするするとどこからともなく現れて、それらを食べてしまった。この蛇は特別製だが、蟻も食べるとは知らなかった。普通の蛇も食べるのだろうか。私たちはそれから場所を二人の寝室に移した。襖の、小さな色とりどりの四角を幾つも散らした、淡い金色が夜に映える。気づけば雨は甘くなり、雷も遠のいていた。
「他にどんな宝珠が、どこにあるか、情報を集めましょう」
聖の双眸は希望を得た者のそれだ。
ごめんね。ずっと寂しい思いをさせようとしていたね。
私が聖の頬に手をあてると聖の紅玉が細くなった。
「情報収集は私たちコトノハ使いの得意とするところです。早速、近日中に一族の主立った者に宝珠に関する情報の収集を命じましょう。隠れ山の皆にも協力してもらえるかも」
聖がそこでふと黙った。
「どうしました?」
「……こと様は、僕の為に禁を犯しました。そのことを咎め立てする輩がいなければ良いのですが」
「良い」
凛然として。聖がはっとした顔をする。
「責の全ては私が受ける。事実、私は音ノ瀬一族の当主に相応しからぬことをした」
聖は一歩、間違えれば涙が滲みそうな微笑で、少し眩しそうに私を見る。
そしてあれこれと話し込んでいる内に、私は聖のコトノハと雨音を子守唄に、すっかり寝落ちしてしまった。




